特定のブランドをひいきするのは私の趣味ではないが、セイコーとグランドセイコーの場合、話は別だ。有名なスイスブランドかグランドセイコーかのどちらかを選べと言われた場合、私の答えは2015年以前と以降では異なるものになる。私は2015年にグランドセイコーのマニュファクチュールを見学するために日本を訪問したが、これが文字通り、「目を見張る」ような経験となったからだ。
もちろん2015年以前にもセイコーとグランドセイコー(両ブランドは当時ひとつの会社であったが、2017年にグランドセイコーが単独ブランドとして独立) が素晴らしいブランドであることは知っていたが、8日の日程でセイコーの盛岡と塩尻工場において同社の製造プロセスを目の当たりにして以来、このブランドへとても大きな敬意を持つようになった。グランドセイコーとクレドールの時計は両工場にて生み出されている。
セイコー
目を見張る経験となった日本旅行の話はさておき、まずはセイコーについて書こうと思う。セイコーは手頃な価格で良い品質の時計ブランドとして知られており、様々なバリエーションのモデルを大量生産するメーカーだ。革製ベルトのシンプルなドレスウォッチや電池時計、また高く評価されているグランドセイコーの 9S メカニカルムーブメントを搭載したプロフェッショナルなダイバーズウォッチ (プロスペックス シリーズ) など、セイコーはあらゆるニーズに応える数々の時計を提供している。セイコーが市場に送り出している時計の大半は、シンプルで低価格なクォーツ時計である。同社のマニュファクチュールはクォーツムーブメントの大量生産を手がけており、この種の時計がブランドの基盤となっている。
私たちのような時計ファンにとっては、最新コレクションだけでなく、以前に製造されていた古いモデルも魅力的だ。ヴィンテージのセイコー時計は入手しやすいため、間違ってオリジナル製品でない部品で補足された時計を買ってしまったとしても、さほどがっかりしないで済むだろう。スイスブランドのヴィンテージ時計ではそうはいかない。
世界初の自動巻きクロノグラフ ムーブメントを開発したのはセイコーだった。セイコーのキャリバー 6139 は1969年に発売され、これはゼニス社のエル・プリメロやブライトリング、ビューレン、ホイヤーのキャリバー 11 以前に発表されたことになる。さらに、この特別ムーブメントを搭載したセイコー クロノグラフはたったの数十万円で手に入るのだ。このような高機能な時計をこれほど低価格で提供しているブランドは他に類を見ない。
セイコー プレサージュ コレクションの時計なら、どんなパーティーやディナーへも付けて行ける。機械式ムーブメントを搭載したこれらの時計には魅力的な文字盤が使用され、非常に輝かしいデザインだ。このコレクションは、つい数年前から日本とアジア圏以外でも販売されるようになった。(JDM という言葉をご存じだろうか?これは日本国内向けに製造されたモデルを意味している。) その価格は13万円以下で、まさに高品質・低価格である。
ハイテク技術を取り入れたセイコー アストロンGPSは、時計ファンの間でも好き嫌いが分かれるモデルだ。この時計は GPS で制御された、世界一正確な時計だ。中にはクロノグラフ機能搭載のモデルもあり、デザインと素材においても数種類の異なるものが提供されている。
セイコー時計の中で、仕上げとムーブメントの面でグランドセイコーの時計に類似しているのは、プロスペックス コレクションのマリンマスターモデルであろう。この有名なマリンマスターには、グランドセイコームーブメント 8L35B をベースにしたセイコーキャリバー 300 SBDX017 が搭載されており、ケースにはザラツ研磨が施されている。
セイコーの時計には、同社が自社開発したスプリングドライブ ムーブメントが搭載されたモデルも存在する。この発明では機械式時計の動力とクォーツ式時計のIC制御システムを採用し、ローターに磁力の「ブレーキ」をかける。この仕組みは、従来の脱進機の代わりとなるトライシンクロレギュレーターによって実現される。スプリングドライブ ムーブメントには電池が使用されず、従来のぜんまいが動力の供給に用いられる。セイコーはスプリングドライブの研究開発に20年の歳月を費やし、これを1998年にバーゼルワールドで発表した。
グランドセイコー
グランドセイコーは、セイコー株式会社において長い歴史を持つ。1960年に創立されたグランドセイコーの目標は、最も美しく、かつ高精度で耐久性のある時計の製造だった。1960年代と70年代に様々なグランドセイコー時計が発表されたが、中でも特に注目すべきはモデル 167 44GS だ。グランドセイコーはこのモデルのデザインに、初めて「セイコースタイルのデザイン文法」を使用。曲面的なケースサイドライン、ボディに埋まるようなリュウズ、多面カットのアワーマーカー、多面カットの針、超逆斜面の側面 (ザラツ研磨) などがセイコースタイルの決まりになっている。グランドセイコー 44GSに採用されたデザインは、他の多くのモデルにも使われている。
その後このコレクションは10年以上もその姿を消していたが、1988年に復活した。カムバック当初にはクォーツムーブメントが使用されていたが、1998年以降のモデルには美しい機械式ムーブメントが搭載されている。グランドセイコーの時計に使用されるムーブメント名称は、全て数字の「9」で始まる。機械式ムーブメントは9S、クォーツムーブメントには9F、上に記述したスプリングドライブには9Rが付けられており、このイニシャルの後に続く番号によって、モデルやムーブメントのバージョンが分かる。