2023年05月24日
 6 分

パワーリザーブとは

René Herold
A.-Lange-&-Söhne-Lange-31-2-1

時計に親しんでいる人なら誰もが、パワーリザーブという言葉に出くわしたことがあるはずだ。しかし、多くの時計愛好家はその本当の意味を漠然としか理解していない。時計を着けている人なら誰でも、日常生活の中でパワーリザーブの影響を受けているにもかかわらずだ。そこで、一度もう少し詳しく見てみたい。

Tudor North Flag
Tudor North Flag

パワーリザーブとは何を意味するのか

すべての時計は機能するためにエネルギーを必要とする。このエネルギーはなんらかの形で蓄えられ、そこから徐々にムーブメントへと供給される。機械式の腕時計や懐中時計では通常、この役割は主ゼンマイが担っている。主ゼンマイとはいわゆる香箱の中にある渦巻状に巻かれた金属製のリボンのことだ。巻き上げリュウズを使って巻きあげ、運動エネルギーを供給する。主ゼンマイをいっぱいに巻けば巻くほど、たくさんのエネルギーが蓄えられる。時計のエネルギーを蓄える他の形としては、例えばクォーツ時計の電池や床置きの箱型大時計の錘の付いたワイヤー機構等がある。

パワーリザーブとは、フルに充填されたエネルギー蓄積装置が途中で新しいエネルギーの供給を受けることなく、エネルギーを完全に放出するまでの時間のことを指す。言い換えれば、ゼンマイが完全に巻き上げられた時から時計が止まる瞬間までの時間のことだ。時計のパワーリザーブを測るには、自動巻き時計の場合、途中で時計を動かさないことが重要だ。動かしてしまうと巻上げローターがゼンマイに新たにエネルギーを供給してしまうからだ。ソーラー駆動のクォーツ時計の場合は、ソーラーセルに光が当たらないようにしなければならない。そうしないと、時計の電池は常に充電されていることになる。

パワーリザーブは腕時計を身につける人にとって、常に時計を巻かなくても良い自由を与えてくれる重要な機能だ。例えば、週末に時計を外して置いたままにしても、時計は止まらずに動き続ける。

ロングパワーリザーブと仕組み

機械式時計の場合、パワーリザーブは38時間から42時間が標準とされている。しかし、近年、多くのメーカーがこの数字を上げるために熱心に取り組んでいる。例えば、オメガのコーアクシャル マスタークロノメーター キャリバーは50時間超、ロレックスの現行ムーブメントは70時間も動き続ける。それでもまだ足りないという方は、パネライ ラジオミール オット ジョルニを見てみて欲しい。この時計は、完全に巻き上げると力尽きるまでに8日かかる。ウブロ ビッグバン MP-11はさらにその上を行き、2週間のパワーリザーブを備えている。だが、パワーリザーブの絶対的なチャンピオンはA. ランゲ&ゾーネ ランゲ31だ。なんと、31日に1度巻き上げるだけで良いそうだ。

A. Lange & Söhne Lange 31
パワーリザーブの女王:A.ランゲ&ゾーネ ランゲ31

なぜこのような素晴らしい数値を実現できるのだろうか?上述の3つの例については、メーカーがムーブメントに複数の香箱を搭載する方法を採用しており、パネライとランゲ31には2つ、MP-11には7つの香箱が直列つなぎになっている。仕組みは至ってシンプルで、最初のゼンマイのエネルギーが尽きると、フルに巻かれている次のゼンマイが引き継ぐという具合に、どんどん次に引き継いでいくものだ。しかし、この方法でパワーリザーブを増やすことには欠点もある。ゼンマイの特性として、エネルギーは均等に放出されないということだ。ゼンマイが弛めば弛むほど、ムーブメントに伝える力が弱くなり、時計の精度に影響する。直列につないだ香箱ではその影響が出やすい。それぞれのゼンマイがフルパワーで始まり、その後ゆっくりと力を弱めるからだ。

ロレックスは別のアプローチをしている。キャリバーの効率を上げることで、パワーリザーブを長くしたのである。ロレックスのクロナジー エスケープメントは非常に効率が高く、摩擦の発生が大幅に抑えられている。つまり、時計が消費するエネルギーが少ないということだ。さらに、ロレックスは巻き上げゼンマイそのもので様々な試みをし、常により薄い素材でゼンマイを作ることに成功している。素材を薄くすることで、ゼンマイを大幅に長くすることができ、より多くのエネルギーを蓄えることができるようになった。

パワーリザーブ表示付きの時計

時計作りにおいては、パワーリザーブ表示は複雑機構のひとつに数えられる。その名が示すように、時計のエネルギーが終わりに近づいていることを、時計の着用者に知らせる機能だ。携帯電話やタブレット端末等のバッテリー表示に相当するものである。

アブラアン・ルイ・ブレゲは1800年頃、パワーリザーブ表示を時計に取り入れた最初の人間だった。その後まもなく、この複雑機構はマリンクロノメーターに標準装備されるようになった。海の上で時計が止まってしまうわけにはいかないからだ。

1930年代初頭、自動巻きキャリバーが登場すると、パワーリザーブ表示は多くの腕時計に搭載されるようになった。当時人々は自動巻き機構をまだ充分に信用していなかったため、メーカーはいわば安心してもらうために表示を搭載したのだ。パワーリザーブ表示を腕時計に標準装備した最初のメーカーは、1948年のジャガー・ルクルトである。

Hamilton Jazzmaster Power Reserve Auto mit Gangreserveanzeige
ハミルトン ジャズマスター パワーリザーブ オート、パワーリザーブ表示付き

パワーリザーブ表示は今では滅多に見かけなくなった。よく知られている代表的なものは、A. ランゲ&ゾーネ ツァイトヴェルクIWC ビッグパイロットハミルトン ジャズマスター パワーリザーブ オート等だろう。表示自体は通常、針のついたオフセンターのサブダイヤルとしてデザインされ、車の燃料計を連想させる。クォーツ時計のアプローチはこれとは異なり、その多くは残量表示をせず、秒針で電池の寿命が近づいたことを知らせる。電池残量がわずかになると、秒針が2秒単位でジャンプするのだ。

パワーリザーブはどのくらいあれば良いのか

パワーリザーブはすべての時計愛好家にとって実用的で重要な機能だ。パワーリザーブが長ければ長いほど、時計にエネルギーを供給する頻度、つまり巻き上げの頻度が少なくて済む。しかし、極端に長い間エネルギーの供給を受けずに機能する時計は、パワーリザーブを伸ばすことによって精度が犠牲になる危険性をはらんでいる。そのため、中間程度の長さの時計を選ぶのがベストだ。40時間~80時間程度のパワーリザーブがあれば安心だろう。


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René Herold

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