2022年04月13日
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Watches & Wonders 2022:まだ注目されていない新作6本

Chrono24
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ステラ・キルヒナー著

ジュネーブで開催された「Watches & Wonders」ではアイコニックなヴァシュロン・コンスタンタン222の復活から、初の左利き用ロレックス GMTマスターIIまで数多くの新作が発表された。しかし、重要な新作を打ち出したのは時計界の大物たちだけではない。Chrono24では、あまり知られていない時計ブランドから、気になった6本の新作をご紹介したい。

1. 手首の細い方におすすめのチャペック アンタークティック

ロレックスやパテック フィリップといった時計界のビッグネームにこだわらない時計愛好家なら、チャペックのアンタークティック・コレクションの名を聞いたことがおありだろうか。Chrono24の記者ヨルク・ヴェッペリンク(Jorg Weppelink)もチャペック アンタークティック テール・アデリーを投資の対象として推薦していた。しかし、40mm径を超えるサイズはすべての人の手首にフィットするわけではない。そこでチャペックは今回のWatches and Wonders 2022で直径38.5mmの小さめのバージョンを発表した。「最近は小さめのモデルを求めるお客様が多い」こと、そして「トレンドは再びやや小ぶりの時計に向かっているようである」ことを、同ブランドのCEOであるザビエル・デ・ロックモーレルも認めている。チャペック アンタークティック パサージュ・ドゥ・ドレークの小さめのバージョンとしてグレイシャー・ブルーとサーモン・ピンクの2色で登場し、メーカー希望小売価格は2万2600ユーロ(約304万円)だ。ところがChrono24では、同シリーズの大型バージョンはすでに希望小売価格を大きく上回り、540万円前後で販売されている。

プレーンな両モデルに加え、限定モデルの「フローズン・スターS」も登場した。このモデルの文字盤には、オスミウムという地球上で最も希少な貴金属が使用されている。オスミウムは白金族金属で、年間推定1トンしか採掘されない。ゴールドのわずか7分の1の量だ。また、融点が3000度と高温なため加工が難しい。しかしながら、そうして得られるこのオスミウム文字盤の時計は、ブルーグレーからほぼ白に近い唯一無二の輝きを放っている。38本限定で、メーカー希望小売価格は8万8200ユーロ(約1190万円)だ。

チャペック アンタークティック パサージュ・ドゥ・ドレーク S

2. H. モーザー社、見えない時計とエナメルを発表

H.モーザー社もWatches & Wonders 2022のために貴重な素材を見つけてきた。®Vantablack(ベンタブラック)という素材を使った時計をご存じだろうか?炭素化合物で、光の反射が少ないために地球上で最も深く鈍い黒色を帯びる物質だ。この世界で最も黒い黒であり、すべての光を最高99.965%吸収すると言われている。だが、特別なのはそれだけではない。この素材は非常に多孔質で、わずかな接触でばらばらに崩れてしまう。モーザー ストリームライナー「Blacker than Black」(黒よりも黒い)は残念ながら着用することはできず、Watches & Wondersの展示品として眺める以外にない。しかしながら、これほどまでに筆者を驚かせた時計は他にない。この魅力的な物体は黒い背景に溶け込んでしまっていて、展示ケースに近づいてみて初めて、そこにあることに気がついたほどだ。世界で一番黒い時計が芸術的なオブジェのままなのは非常に残念だ。

モーザー ストリームライナー「Blacker than Black」はこのショーケースのどこにあるのだろう?

モーザーの新作エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーンは、ショーケースの中だけでなく手首でもアイキャッチャーであり、輝くグリーンの文字盤に目を奪われる。メーカーはこの色彩効果を得るために、まずゴールド製の文字盤を粗くざらざらにし、その後顔料を入れている。この3針時計の文字盤は40mm径で、どんな方の手首にもフィットし、グレーのレザーストラップはまばゆく輝く文字盤と見事なコントラストをなしている。

H.モーザー エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーン

3. アーノルド&サンのダイヤモンドと月を備えたレディースウォッチ

素材に関してはアーノルド&サンも引けをとらない。ダイヤモンドを100個以上あしらった新作パーペチュアルムーン 38 エクリプス Iがレディースウォッチ分野で輝かしいデビューを飾った。直径38mmのムーンフェイズウォッチに搭載されているのはブランド史上最小のキャリバーで、最新の技術を駆使した精巧なものだ。12時位置の窓からは、ダイヤモンドの月が月齢に応じて空での位置を変える様子を眺めることができる。8時位置の天空は(それ以外考えられないが)ダイヤモンドのセッティングだ。アーノルド&サンは男性の時計ファンのためにも、負けず劣らぬ豪華なムーンフェイズの新作を発表した。2022年は寅年にあたるため、18Kローズゴールドの堂々たる虎が時計の3時側沿いに忍び寄る。両モデルとも限定生産で、”イヤー・オブ・ザ・タイガー” パーペチュアルムーンは8本、パーペチュアルムーン 38 エクリプス Iは18本だ。

アーノルド&サン パーペチュアルムーン 38 エクリプス

アーノルド&サン ”イヤー・オブ・ザ・タイガー” パーペチュアルムーン

4. 革新的なムーブメントを搭載したルディ・シルヴァ

Watches & Wonders 2022を特徴づけるのは人目を引く素材だけではない。元サッカー選手のジャッキー・エピトーが設立したブランド、ルディ・シルヴァのムーブメントのように注目すべき技術も見ることができる。このムーブメントには連結された二つのテンプがあり、互いに調整し合うことで重力の影響をなくし、精度を高めている。「コンピュータ上で最初のバージョンをモデリングした時、この技術がうまくいくとは誰も思わなかった」とエピトーは言う。しかし、エピトーが時計職人の古い木製の道具箱に納めて送り出すこの時計は、その考えが正しくなかったことを証明している。しかも、1本1本がみな一点もので、年間10本程度しか出荷されない。オーナーのエピトーが言うには「刻印も、一つ一つの時計の細部も、すべて手作業」とのことだ。

ルディ・シルヴァの時計にはすべて自社設計のキャリバーが搭載されている。

5. アーミン・シュトロームが日付表示機能を新解釈

アーミン・シュトロームも技術革新をもたらしている。それも、非常に人気のある複雑機構でありながら、バリエーションが最も少ない「日付表示」についての技術である。一般的な時計のように小窓から日付を読み取るのではなく、ボタンを押して日付を表示させるのだ。この特許取得の新しいコンプリケーションはコラムホイール駆動だ。通常はクロノグラフ機構で採用されている技術だ。アーミン・シュトロームの共同設立者であり時計職人のクロード・ガイスラーは「人気のある複雑機構を再解釈し、遊び心のある楽しい方法で日付を表示することができて、とても嬉しく思う」と述べている。新シリーズ「オービット」のファーストエディションは25本限定、メーカー希望小売価格は3万1300ユーロ(約422万円)だ。

アーミン・シュトロームの新シリーズ「オービット」

6. クロノグラフのアイコンウォッチを称えるアンジェラス

Watches & Wonders 2022ではまったく新しいモデルや複雑機構だけでなく、時計界のアイコンへのオマージュも用意されている。その最たるものが、クロノデイト・シリーズをさらに発展させたアンジェラスだ。この有名なクロノグラフキャリバーは80年も前から、世界中の時計愛好家を魅了し続けている。レッドゴールドとチタンの新モデルにも、旧モデルからインスパイアされたバイコンパックスの自動巻きムーブメントが搭載されている。「アンジェラスのさまざまなスタイルを融合させたコレクションだ。いわば、クロノデイトのレガシーと近年のモダンなデザイン要素を組み合わせたものだ」とアンジェラスとアーノルド&サンの製品開発責任者であるデイビッド・アポテロスは説明している。このシリーズは75本の限定生産で、メーカー希望小売価格はチタンモデルが2万2900ユーロ(約309万円)、レッドゴールドモデルが4万2900ユーロ(約579万円)だ。

アンジェラスはおなじみのクロノデイト・シリーズを復刻。

Watches and Wonders 2022:ロレックスやパテックを超える

ご紹介した独立系ブランドの新作をどう思われただろうか?個々のモデルに魅力を感じるかどうかは人それぞれだが、大手ブランドからの革新的な発表は今年も少ない傾向にあったと言えるだろう。むしろ、小さなブランドの方が、それぞれのモデルにどれだけのノウハウや品質、アイデアを注ぎ込んでいるかを証明してみせていた。


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