パテック フィリップ

ジュネーブ唯一の独立した家族経営の時計ブランドであることから、時計業界だけでなく多くの人から注目され高い評価を得ているパテック フィリップ。使用している部品のほとんどは自社で生産されています。多くの時計ファンがいつかコレクションに加えたいと思っているブランドであると同時に、人気の高さと安定した価値で投資としても最適なブランドです。

パテック フィリップは伝統的なデザインを重んじ、ブランドらしさを大切にしています。ゴールドやプラチナといった貴金属素材を中心に使用し、ステンレス製の時計を展開してはいるものの、他のブランドに比べるとその数は圧倒的に少なくなっています。

パテックフィリップを代表するのが、カラトラバとノーチラスの2つのコレクションです。カラトラバは1932年の登場以来、シンプルエレガンスを代表するモデルであり、1970年代後半に登場したノーチラスは、かの有名なジェラルド・ジェンダデザインのスポーティーなモデルです。ノーチラスは多くの時計ファンにとって、パテック フィリップの代名詞とされています。

また、パテック フィリップは、コンプリケーションと、グランドコンプリケーションで、その卓越した時計制作技術を披露しています。この2つのコレクションでは、トゥールビヨン、ミニッツリピーター、永久カレンダー、ムーンフェイズ、またはワールドタイムを搭載した時計がラインナップされています。

格式高いパテックフィリップの時計は、ほとんどのモデルが上位の価格帯に位置しています。なかでも、最上位と言われるのがコンプリケーションやグランドコンプリケーションコレクションの時計です。現行モデルの場合、価格は約730万円から始まり、旧モデルの場合では約220万円で購入することができます。複雑機構をいくつも搭載したグランドコンプリケーションでは価格は億単位になり、Ref. 5208R-001の場合、約1億9600万円の投資が必要です。

人気のカラトラバやアクアノートでは価格が少し下がり、カラトラバの場合、Chrono24で約120万円から購入が可能です。一方で、アクアノートコレクションの場合は、価格は約300万円です。また、搭載されているコンプリケーションやケース素材によっては、約1500万円以上することもあります。2023年の半ば時点では、アドバンストリサーチ アクアノート トラベルタイムに約8300万円の価格が付けられています。

パテック フィリップの中でも特に人気なのがノーチラスです。2023年の6月現在で、価格は中古の3針タイプの婦人用モデルの場合、少なくとも270万円ほど、人気のRef. 5711/1A-010となると、新品の状態で平均で2000万円前後です。特にティファニーブルーの文字盤を持つ限定モデルのノーチラス5711となると、その価格はにわかに信じがたい額になり、時計市場ですでに4億を超えるグランドマスター・チャイムと同じような価格が付けられています。

ゴールデン・エリプスやTwenty-4、ゴンドーロはパテック フィリップの中でも中位の価格帯に位置し、Chrono24では最新のモデルが約150万円から600万円で購入が可能です。また、ヴィンテージモデルの場合は、状態の良いもので75万円ほどとなっています。

80年以上に渡りパテック フィリップのコレクションを飾っているカラトラバ。この名前はスペイン、カラトラバの町で設立された騎士団にちなんでいます。騎士団の紋章であるカラトラバ十字は同ブランドのエンブレムのオリジナルデザインであり、リューズに刻印されています。シンプルでエレガントな佇まいのカラトラバはフォーマルな装いと相性がよく、理想的なドレスウォッチと言えます。

バリエーションが豊かなカラトラバは、全てのモデルが薄型に仕上げられています。シンプルな３針モデルの5227の場合も同様で、ケースサイズ39mmに対し、厚みはわずか9.24mm。ホワイトゴールド、レッドゴールド、イエローゴールド製の自動巻きモデルの場合、仕様により約500万円から590万円という価格が付けられています。

カラトラバコレクションの中でもエレガントさが際立つのは、6時位置にスモールセコンドが配置されたモデルです。Ref. 6119では、ギョーシェ装飾による「クルー・ド・パリ」ベゼルが採用され、65時間のパワーリザーブを誇る自社製キャリバー30-255 PSが搭載されています。Chrono24では2023年6月時点でホワイトゴールド製が約460万円、ピンクゴールド製は50万円ほど高い約510万円という価格になっています。

カラトラバコレクションには、ピンクゴールド製やホワイトゴールド製でダイヤモンド装飾が施された婦人用時計も展開されています。ケースサイズは33mm～38mm、薄型で手巻き式のものや自動巻き式のモデルがあります。カラトラバの婦人用腕時計の価格は、中古のクォーツムーブメントの場合、約75万円からで、煌びやかな装飾が施されたモデルの場合は約980万円に達することもあります。

また、カラトラバコレクションには細やかな手彫りの文字盤とプラチナ製ケースが採用された上位モデルもあります。Chrono24ではシックでエレガントなモデルRef.5088/100Pに、1500万円を超える価格が付けられています。

2023年の新しいカラトラバ

2023年、パテック フィリップはWatches and Wondersにて、カラトラバに新作を追加しています。なかでも、ひときわ目を引いているのがカラトラバ 24時間表示トラベルタイム 5224R-001です。このモデルではマイクロローターを備えた自社製キャリバー31-260 PS FUS 24Hが搭載され、同時に2つのタイムゾーンの表示が可能に。さらに他の多くのGMT時計と違い、文字盤上の24時間表示でホームタイム（GMT）とローカルタイムの2つのタイムゾーンが表示されます。Chrono24では、2023年6月時点でピンクゴールド製の新作が約750万円で購入可能です。

カラトラバ パイロット トラベルタイムにも、クロノグラフ機能付きの新たなモデル5924Gが登場しています。ホワイトゴールド製のパイロットウォッチデザイン、ブルーグレーまたはカーキグリーンの文字盤の2色展開で、Chrono24での価格は約1400万円です。

また、その他の既存のモデルにも新作が追加され、過去に限定発売されたステンレス製6007A-001が、今回ホワイトゴールド仕様の3種で現行コレクションとして発表されました。文字盤と秒針には、それぞれレッド、イエロー、スカイブルーのアクセントカラーが使用され、時計に新鮮な印象を与えています。Chrono24では約900万円から1100万円の価格が付けられています。

パテック フィリップの中で、スポーティーモデルであるノーチラス。機能美に重きを置いたデザインのステンレスモデルが人気です。船の舷窓からインスピレーションを得たという独特なケースデザインは、1976年にジェラルド・ジェンタが初めてノーチラスを発表した頃からのものであり、また素材も初代モデルであるRef. 3700/1の頃からステンレスが使用されていました。初代モデルのヴィンテージとなると、状態の良いもので価格は3000万を超えると言われ、2023年6月の時点では、後継モデルであるRef. 5711/1の価格を平均でおよそ1000万円も上回っています。

パテック フィリップはWatches and Wonders 2021で5711モデルで最後となるRef.5711/1A-014を発表しました。水平エンボス模様にサンレイ仕上げが施されたオリーブグリーンの文字盤は、これまでのノーチラスにはなかった色使いであり、このモデルの一番の特徴です。発売時の定価は401万5千円でしたが、2023年6月の時点では二次流通市場で約4700万円の価格が付けられています。

この "グリーン" のノーチラスにはダイヤモンド付きベゼルモデルのRef. 5711/1300Aもあり、発売時の定価は1086万8000円でしたが、Chrono24における現行価格は約1億1250万円となっています。

また、Ref.5719/10G-010はホワイトゴールド製の総ダイヤモンドモデルです。約1700個のダイヤモンドがあしらわれたこのモデルは、Chrono24で9000万円前後で販売されています。

ノーチラスの中で最も高額とされているのが、ティファニーブルーの文字盤を持つ5711/1Aです。このモデルはジュエリーブランド、ティファニーとのパートナーシップ締結170年を記念したもので、2021年に発表されました。ステンレスモデルと同じ機能が搭載されたホワイトゴールド製で、生産数は限定170本。米国内のティファニーブティックのみで限定発売され、発売当初の日本円で約600万円という定価に対し、2023年の半ばでは、市場で3億円代後半から4億円を超える価格が付けられています。

2022年10月、パテック フィリップは5711の後継機としてRef. 5811/1G-001を発表しています。ケースとブレスレットはホワイトゴールド製で、ケースサイズは1mm大きくなった41mm。その他、スペックや見た目のデザインに大きな違いはなく、ブルーの文字盤に前作と同様のキャリバー26‑330 S Cが搭載されています。Chrono24での5811モデルの価格は、2023年6月の時点では約2400万円です。

複雑機構を搭載した女性用パテック フィリップ ノーチラス

ノーチラスには、3針モデルだけでなく、年次カレンダーやムーンフェイズ、クロノグラフ、第2タイムゾーン表示といった複雑機構を搭載したモデルがあり、Chrono24での価格は約1300万円から3500万円となっています。

パテック フィリップは女性用ノーチラスとして、ケースサイズ32mmのクォーツ式と35.2mmの自動巻き式の2モデルを展開しています。素材はステンレスとピンクゴールドの2種類で、ダイヤモンド付きベゼルを持つモデルや宝石が全面にあしらわれたモデルもあります。Ref. 7118の場合、シンプルなステンレス製モデルが約900万円、2553個のダイヤモンドが全面にあしらわれたピンクゴールド製モデルが約5800万円です。

アクアノート – 丸みを帯びたモダンなフォルム

ノーチラスからインスピレーションを得て1997年に発表されたモデルであるアクアノート。ケースは丸みを帯びたモダンなフォルムのデザインで、防水性、牽引耐性、紫外線耐性に優れたトロピカルバンドが時計にスポーティーでフレッシュな印象を与えています。Chrono24では2023年6月時点で、現行のステンレス製3針モデルのアクアノートRef. 5167A-001が約1000万円で販売されています。

ホワイトゴールドやピンクゴールド製になると、約1250万円から1400万円の価格が付けられています。また、同じような価格帯には、第2タイムゾーン表示機能を搭載したステンレス製のアクアノート トラベルタイム Ref. 5164Aがあり、ゴールド製の場合では、価格はおよそ1750万円です。さらに、クロノグラフモデルとなると、価格は200万円ほど上がります。

婦人用モデルは、アクアノートでも用意されており、サイズ展開は35.6mmと38.8mmの2種類です。デザインはシンプルなステンレスモデルから、ダイヤモンドを全面にあしらったゴールド製モデルまで、幅広く取り揃えられています。Chrono24では、ステンレス製のクォーツ式ムーブメントの場合、価格は約210万円、同スペックでダイヤモンド付きべゼルの場合、約780万円、ダイヤモンド付きのゴールド製のモデルの場合、約1400万円から5500万円です。

アクアノート初の年次カレンダー搭載モデル

2023年、パテック フィリップはアクアノートで初となる年次カレンダーとムーンフェイズ機能を搭載したモデルを発表しています。ピンクゴールド製のアクアノート・ルーチェ 年次カレンダー 5261はケースサイズ39.9mmで、サファイヤクリスタルのケースバックからは自社製キャリバー26‑330 S QA LUを垣間見ることができます。

アクアノート・ルーチェ 年次カレンダー 5261の定価は827万2000円ですが、2023年半ば時点ですでに非常に入手困難なモデルとなっています。

パテック フィリップは、コンプリケーテッド・ウォッチと呼ばれるグランドコンプリケーションとコンプリケーションの両コレクションで、同ブランドの高い時計製造技術を披露しています。また、その個性を引き立てるために素材はゴールドやプラチナといった貴金属のみが使用され、ケースにはダイヤモンドや繊細な彫刻が施されています。

コレクションのエントリーモデルには、年次カレンダーやムーンフェイズ、ワールドタイム機能を搭載したモデルが並び、価格は約600万円から1200万円。さらに複雑な構造やスケルトン仕様の場合、価格は約1100万円から1800万円まで上がり、この価格帯では、永久カレンダーを搭載したモデルもあります。さらに永久カレンダーを搭載したクロノグラフモデルの場合は、価格は約3000万円から4500万円です。また、ボタンを押すと音で時間を教えてくれるミニッツリピーターを搭載したモデルは3000万円前後です。

各コレクションの頂点に立つのは、 スカイムーン・トゥールビヨンやグランドマスター・チャイムのような非常に複雑なモデルです。スカイムーン・トゥールビヨンが12のコンプリケーションを搭載しているのに対し、グランドマスターチャイムは20のコンプリケーションを搭載しています。その中には、永久カレンダー、トゥールビヨン、第2タイムゾーン表示、恒星時表示、ミニッツリピーター、デイトリピーターなどが含まれます。時計製造における最高峰の技術と芸術性が表現されたこれらの時計の価格は、スカイムーン・トゥールビヨンが約3億円、グランドマスターチャイムが約4億5000万円です。

2023年グランドコンプリケーションコレクション新作

パテック フィリップは2023年、コンプリケーテッド・ウォッチの2つのコレクションの既存モデルに新作を追加しています。グランドコンプリケーションコレクションのグランドマスターチャイムにはホワイトゴールドとピンクゴールドのコンビカラーモデルや、エメラルドとダイヤモンドをあしらったモデルが追加されています。

また、5316Pは新作のプラチナ製5316/50P-001と置き換わりました。キャリバーR TO 27 PS QR、永久カレンダー、ミニッツリピーター、トゥールビヨン、ムーンフェイズ表示などは変わりませんが、文字盤は新たにメタリックブルー・サファイヤクリスタル製となり、内部機構が透けて見られます。2023年の半ば時点では、二次流通市場でこの新作を見つけることはまだできませんが、旧モデルで黒七宝文字盤を持つ5316P-001の場合、Chrono24では1億7000万前後で販売されています。

カラトラバのクラシックなラウンド型やノーチラスの舷窓デザインの他にも、パテックフィリップには、独特なフォームをした時計があります。例えば、1968年に発表されたゴールデン・エリプスは、黄金比率で作り出された楕円形で、洗練された美しさを放っています。Chrono24では、プラチナやピンクゴールド製の現行モデルを約460万円から700万円で購入することができます。また、1970年代や1980年代のヴィンテージモデルの場合、価格は約100万円から220万円です。

1999年以降、パテック フィリップはTwenty~4コレクションで婦人用の時計を展開しています。このコレクションでは、大きく分けて時計に2種類の形があり、1つは角型をしており、ブレスレットと一体化したケースはカルティエ タンクを想起させるものです。もう1つは2018年にTwenty~4コレクションに加わったラウンド型のモデルです。ケースの形の他に、この2つの時計の大きな違いはムーブメントにあります。角型モデルにはクォーツ式ムーブメントが、ラウンド型モデルには自動巻き式の自社製ムーブメントが搭載されています。Twenty~4コレクションは、ステンレスやピンクゴールド製、ダイヤモンド装飾の有無など、さまざまなタイプがあり、2023年半ばの時点で価格は約150万円から4000万円です。

パテック フィリップ ゴンドーロ

パテック フィリップのゴンドーロコレクションはアール・デコという言葉がまさにぴったりな時計です。ケースは、クッションのような丸みを帯びた四角形、正方形、トノー型、または3つをすべてミックスさせたかのような形をしています。パテック フィリップは、このコレクションの時計にはゴールドのみを使用し、ダイヤモンドやパールを組み合わせています。使用されているムーブメントは、手巻き式がほとんどですが、一部にクォーツ式ムーブメントが搭載されています。ゴンドーロは1970年代のヴィンテージモデルの場合、約100万円から購入することができます。一方で、現行モデルのシンプルなモデルでは約370万円から600万円、ダイヤモンドやパールが施されたモデルとなると価格は上がり約2900万円です。

自社製の機械式ムーブメントで有名なパテック フィリップ。そのキャリバーには特徴があり、現在でも使用されているテンプの「Gyromax」は1949年に特許を取得したものです。調整ネジがなく、小さな調整リングがいくつも付いたこのテンプの場合、慣性モーメントが大きくなります。慣性モーメントが大きいほど、運動する物体は安定する傾向にあり、Gyromaxによって時計の高い精度が実現されています。

また、パテック フィリップは2005年から脱進機の一部にSilinvar®という素材を使用しています。シリコンをベースにしたこの素材は、非磁性で非常に硬質という特徴があり、その硬さから摩擦が少なく潤滑剤は不要とされています。パテック フィリップはその後2006年に、この素材を使用した初のヒゲゼンマイを発表しています。

パテック フィリップの時計は、長きに渡り外部サプライヤーを利用せず自社で一貫生産されてきました。2005年には、ブランド初となるクロノグラフキャリバーが発表され、その後の2012年以降、このタイプのムーブメントはすべて自社生産されています。しかしながら、かつて他社製ムーブメントを使用していた時期もありました。初代ノーチラスに搭載されていたキャリバーは、ジャガー・ルクルトのCal.920をベースにしたもので、初期のオーデマ ピゲのロイヤルオークやヴァシュロン・コンスタンタンの222でも使用されていたものです。この他にもバルジューやレマニアのキャリバーが利用されていました。

2009年、パテック フィリップは機械式時計の品質検査では世界最高水準とされる独自の品質認定基準を設け、1886年以降ジュネーブ州により規定された時計の高い品質基準である「ジュネーブシール」と置き換えています。この2つの品質認定の大きな違いは、パテック フィリップが設けた新しい独自検査では、完成した状態の時計に適用されるという点です。従来のジュネーブシールでは、時計から外された状態のムーブメントにも品質証明が発行されていました。

また、パテック フィリップは機械式だけでなくクォーツ式のムーブメントも使用しており、可動部のない半導体を使用した初のクォ—ツ時計を発明し1959年に特許を取得しています。

パテック フィリップの歴史は、1839年にポーランド人亡命貴族であったアントワーヌ・ノルベール・ド・パテック（1812–1877）がジュネーブで懐中時計の生産を始めたことからスタートしました。その後、1845年にアントワーヌはフランス人時計師のアドリアン・フィリップ （1815–1894）に出会い、ともに時計作りを開始。フィリップの父も時計職人であり、その知識は父から息子へ受け継がれていたのでした。フィリップは1844年に今日広く普及している巻上げ式リューズを発明しており、時計界の歴史における基盤を作った人物です。巻上げ式リューズが発明される前は、ムーブメントの巻き上げには大型時計の多くに使用されているような鍵が使用されていました。1851年には社名が変更され、今日知られるパテック フィリップという名前になりました。

また、社名を変更した年の1851年、アントワーヌとフィリップの2人はロンドンで開催された第1回万国博覧会に時計を出品。その際に、ヴィクトリア女王が自分用とアルバート王子用にと2つの時計を購入しています。その後、すぐにイタリアやデンマークの王室の御用達となり、アメリカへ出向いた際には、ニューヨークのジュエラーであるティファニーから130個の時計の注文を受けたのでした。

その後も、1902年に初となるダブルクロノグラフへの特許を取得、1925年に初の永久カレンダー付きの腕時計を発表するなど、パテック フィリップはその歴史を刻んできました。そして1932年、スターン家が会社の所有権を所持し、今日も家族経営が続いています。2010年にはティエリー・スターンが社長に就任し、年間約6万8000本の時計が生産されています。

2人の時計コレクターの競争

その卓越した時計作りで、常に人々の注目を集めてきたパテックフィリップ。1933年には、開発に3年、制作に5年をかけたという世界で1つしかない18Kゴールド製ヘンリー・グレーブス スーパーコンプリケーションを発表しています。銀行家のヘンリー・グレーブス Jr.は、当時同じく時計コレクターであり、ライバルであった自動車王ジェームス・ウォード・パッカードが持つ複雑な懐中時計と競うためにこの時計をパテック フィリップに注文しました。またパッカードは、25年という時間をかけてパテックフィリップの時計を十数本集めていました。

当時、時計コレクターとして有名であったグレーブスとパッカードですが、スーパーコンプリケーションは2人の競争の最後となった時計です。920の部品からなるこの懐中時計は、今日でも驚異的とされる24の機能を搭載しており、永久カレンダーや英ウエストミンスター寺院の鐘を模したチャイム機構、日の出や日の入りの時刻表示、グレーブスが暮らした5番街のマンションから見える星図の表示などといった機能が含まれています。2014年11月にアメリカで開催されたオークションでは、2400万ドル（約28億円）という記録的な価格で落札されました。グレーブスが制作を依頼した当初の価格は約6万1000（約950万円）ユーロ。現在の約19万ユーロ（約3000万円）に当たります。このスーパーコンプリケーションは、コンピューターを使わずに制作された最も複雑な時計と言われていますが、パテック フィリップは1989年に創業150周年を記念して、スーパーコンプリケーションを超える、33の複雑機構と1728の部品からなるキャリバー89を発表しました。

パテック フィリップの時計には、その後もさらに記録的な価格が付けられています。2016年スイスで開催されたオークションでは、ステンレス製クロノグラフRef.1518が、当時腕時計では最高額だった1100万2000フラン（約12億円）で落札されています。また、2019年11月9日には、慈善団体によるオークションでステンレス製のグランドマスターチャイムRef. 6300A-010が3100万スイスフラン（33億円）という記録的な価格で落札され、世界で最も高額な時計となりました。