2020年03月17日
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まとめ: 中国の時計市場

Sebastian Swart
まとめ: 中国の時計市場

まとめ: 中国の時計市場

経済成長率の低下にも関わらず、中国の時計市場は活況を呈している。中国の裕福な若者たちは、高級時計を次から次へと購入している。彼らにとって、名声とステータスは最も重要なことである。大手メーカーはこのことをすでに理解しており、この巨大なマーケットに次々と参入している。世界で2番目に大きな経済力を持つこの国には、数十年に渡る時計製造の経験がある。製造される全ての時計の20%から30%は中国製で、中国製の部品は「スイス製時計」にずっと前から使用されてきたのだ。

中国製の高級時計は存在するか?

時計愛好家であれば、世界中で生産されている時計とムーブメントの部品の大半が、中国製または香港製であることはすでにご存知だと思う。その割合は、25%から30%と言われている。スイス時計協会FHによる2018年の統計では、中国製の時計の輸出量は約1.5兆円で、そのうち香港は約9630億円だということだ。本数で言うと、中国で6億5600万本の時計が製造され、香港では約2億500万本の時計が製造された。品質に関しては、メーカーが提供する様々な価格帯の時計によってピンキリである。国際的に需要が高く、人々が購入するもならすべて製造される。それは、偽造品や有名なファッション時計のオマージュウォッチから、本物の高級時計まである。

お手持ちのスイス製時計と中国に関係があるとは、思いもよらないかもしれない。しかし、その可能性はある。時計にSwiss Made (スイス製) の原産地を表記できるのは、2017年以降、製造全体の60%以上に当たる部分がスイスで行われた製品である。残りの40%は、他の国で生産されたものでも良いのだ。正式には、ストラップやブレスは時計の一部ではないため、スイスメイドの規制には当てはまらない。そのため、地位と伝統のあるスイスブランドも、中国製の部品を使用しているのだ。これによりスイスの時計業界では、あまり称賛するに値されないスイスメイド・イン・チャイナと言う用語が生まれた。

ここでは「スイス製」の規制については控え、全て中国で製造された時計について見ていこうと思う。そうするとカテゴリーとして残るのは、有名デザインのレプリカ時計、ホワイトラベルとファッション時計、および中国の伝統的なメーカーによる高級時計がある。

レプリカとホワイトラベル時計

パーニス ”デイトナ・スタイル”
パーニス ”デイトナ・スタイル”

パーニス、コルゲート (Corgeut) 、フェイス (Feice) などのメーカーによる時計は、格安レプリカというカテゴリーに当てはまる。これらのメーカーの時計に共通する点は、ロレックスオメガオーデマ・ピゲなどの有名な高級ブランドが過去に発表してきた伝統的な時計デザインを取り入れていることだ。古い時計のデザインにおいては、特許の有効期限が切れているか、デザイン権利が守られていない。こういった時計をオマージュウォッチと解釈する人もいれば、コピー品と呼ぶ人もいる。いずれにせよ、これらの時計は7000円から2万円の価格で販売できるような制作費で製造されている上に、オリジナル感はない。また、部分的に劣る中国製の自動巻きムーブメントが搭載されており、壊れやすい。

ファッション時計

エンポリオ アルマーニ AR2453
エンポリオ アルマーニ AR2453

ボス、ディーゼル、アルマーニ、エスプリや数多くあるファッションブランドは、自身が提供する時計を中国で製造している。とにかく、これらはすでに長い間確立されたブランドである。こういったブランドの時計は、主に完成度にこだわっていて、オマージュやホワイトラベル時計より高い品質である。そしてほとんどは、独自のデザインで仕上げられている。だが狭い意味で言うと、高級時計までには至らない。これらの時計には主に、シチズンミヨタかセイコーなどの日本のメーカーが製造するクォーツ機構が搭載されている。

高級時計

シーガル トゥールビヨン 818.17.8810
シーガル トゥールビヨン 818.17.8810

中国では、「安い時計」だけが製造されているわけではない。シーガルベイジン (Beijing) は、長年に渡り高品質の機械式時計を製造している、伝統的な2つの中国ブランドだ。両社は1950年代に設立され、独自の機構を自社製造しているため、マニュファクチュールと呼ぶことができる。

ベイジン・ウォッチ・ファクトリーは、創業以来一度もクォーツ時計を製造したことがない。ベイジン時計は、一貫して高い完成度を誇り、一部はスイスの技術を扱いながら中国で製造している。3針のシンプルなモデルは約4万円から購入可能で、自社開発したトゥールビヨン搭載のモデルは最大48万円で購入できる。

シーガル・ウォッチ・カンパニーは天津市に拠点を構えており、ヨーロッパでも市場を広げている。ヨーロッパの多くの時計メーカーは、シーガル・キャリバーを採用している。これらの時計内によく見られるのが手巻きムーブメントのST19で、シーガル 1963 クロノグラフなどに搭載されている。このムーブメントは、シーガルが1966年まで製造していたスイスのヴィーナス 175を元に製造されている。シーガルは、ヴィーナスが破産した後にオリジナルの機械などを購入し、改良し、今日まで生産し続けている。ベイジンのように、シーガルは複雑な時計を独自のプログラムに取り入れており、その一部にはトゥールビヨンが搭載されている。ST19 クロノグラフは数万円程度で購入できるが、トゥールビヨンを搭載したモデルは、35万円を大きく上回る値段で販売されている。よって、これは中国製の高級時計と言える。他の有名な高品質の時計メーカーには、ロッシーニ、エボーア (Ebohr) 、そしてフィータ (FIYTA)がある。

中国の時計市場を定義するものとは?

中国や香港での時計市場は、大規模である上に重要である。様々な危機に直面したにも関わらず、2019年は全体的に成長を遂げた。スイス時計の輸出量は、香港が11%減の約2982億円だったが、中国本土が16%増加の2266億円であった。2020年1月、スイス時計業界はやや劇的な数字を叩き出した。香港はわずか10%となり、最も重要な販売市場としての立場を失うこととなった。

 中国本土では2018年の時点で時計の総売上げが7.3%増加し、約1.2兆円近くまで達した。2020年、3.6兆円という世界規模の総売り上げ推定値を見ると、中国と香港が世界の高級時計市場にどれだけの影響を与えているか明白である。

ミレニアル世代: 新しい大きな販売力

ミレニアル世代とは、1981年から1996年に生まれた人々のことを指す。中国でこの世代に当てはまる人口は、約3億5000万人とされている。この数字は、アメリカのミレニアル世代の人口より約3000万人多く、日本のミレニアル世代の人口は約2815万5000人。割合で見ると、中国総人口の約25%がミレニアム世代となる。このグループは、膨大な購買力を持っていると言うことを理解するために、経済学者などに問い合わせる必要はないと思う。この世代は、前世代よりも高い教育水準で育ち、収入も多い。さらに、35歳未満の人は、両親よりもかなり多くの出費をしているそうだ。彼らは旅行先やファッションだけではなく、高級時計も発掘している。

 香港貿易発展局 (HKTDC)の調査によると、2016年には男女の50%が自分の趣味とイメージをもっと良くするために高級時計を購入したと言うデータを発表している。そして、48%が時間を見るために時計を買っているようだ。時計を着用する多くの理由が、成人性、安定な生活、または時間厳守する人と言うイメージを他人に与えるためだという。高精度の機械式時計も、特に男性にとってビジネスの現場では重要な役割を果たす。こういった発展は、競争率がヒートアップした市場へ参入する、または少なくとも参入しようと試みている高級時計ブランドがどんどん増えていることを意味している。

パテック フィリップ
パテック フィリップ

中国には、「貧乏人は高級車を乗り回し、金持ちは高級腕時計で遊ぶ」という言い回しがある。有名な時計ブランドは、この言い回しが伝える内容に真実が含まれていると考え、それを利用している。そのブランドと言うと、オメガ、ロンジン、パテック フィリップ、カルティエ、ピアジェなど。これらのブランドは、中国の消費者を動かす要因が何かをちゃんと理解している。ロレックスは、比較的に遅れて中国市場へ参入したが、それでも華麗な成績を残している。ラン・ラン、リ・ユンディやユジャ・ワンなどのトップクラスの音楽家をブランド大使に採用し、ロレックスは見事にも中国でナンバーワンの高級時計ブランドとなった。

セカンダリーマーケットが市場に参入するのを妨げる

上記に述べたブランドには共通点がある。それは、各自で市場の管理を徹底していることだ。セカンダリーマーケットが成長し続けるこの時代には、市場を管理することはとても重要なことだ。中国ではアリババやJDのeコマースプラットフォームにて、大量の偽造時計が取引されている。よって、小規模の時計ブランドの多くは自社の時計を中国市場に参入させることに対して消極的になる。

ロンジンのCEOであるウォルター・フォン・カネルは、あるインタビューで、セカンダリーマーケットが彼にとって苦しい戦を作っていると述べていた。中国の税関局は、彼がこの戦に勝利を収められるように協力している。ロンジンは長い間中国で高級時計ブランドとしての地位を確立しているため、今の所は経過は良好なようだ。

販売業者は中国の大都市における店舗での小売に加え、自社のウェブサイトを介した直接販売にも力を注ぐようになった。これにより、中国の消費者たちはメーカーから直接時計を購入できる。これは、ドイツのマイクロブランドの多くが長年取り組んでいるやり方である。

将来の展望

ミレニアム世代のグループの増加は、購買力の増加に加え、ファッションや高級品に対する意識も高まることに繋がる。これらの要因は、中国の高級時計市場が今後もさらなる大きな成長が見込めることを示すものである。香港は、今も昔もスイス時計業界にとって最も重要な販売市場だ。同時に、この国は世界で2番目に時計の輸出量が大きい国である。香港の政治状況が再び安定したら、人々はまた高級時計に費やすお金を準備することができるだろう。

香港と中国は何十年もの間、スイスに続いて時計が多く輸出される場所となっており、それはおそらく将来的にも変わらないことだろう。香港と中国で製造される時計の品質は次第に良くなっているが、スイスブランドによる時計の品質に匹敵するものはごくわずかしかない。完成度と品質管理は、西洋からくるノウハウと共に、多くの工場で常に改良されていっている。

高品質の時計に興味を持っているので方には、現在すでに中国からの時計を購入することは1つのオプションとして存在可能かもしれない。シーガルやベイジンなどの時計がそれに値する。

高級時計を選ぶのか、または安いバリエーションを選ぶのか。それは、最終的には購入者次第です。

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記者紹介

Sebastian Swart

すでに数年前からChrono24のサイトを時計の買取と販売、そして時計について調べるのに使っていました。私は子どもの頃から時計に興味を持っており…

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