2024年01月02日
 8 分

オーデマ ピゲ VS ロレックス:2大ブランドを比較

Aaron Voyles
ONP-763-2-1-vs

歴史

1905年にロンドンで、ハンス・ウィルスドルフと義理の兄弟、アルフレッド・デイビスによって創設されたロレックスは、「ウィルスドルフ&デイビス社」として歴史をスタートさせた。彼らは当初、時計ケースをデニソン社から、ムーブメントをエグラー社から輸入して、イギリスで組み立てて世界中に販売していた。1908年、スタートからわずか3年後、「ロレックス」という名前が商標登録され、W&D社の時計のブランド名となった。7年後には正式に、「ロレックス株式会社」と社名を改め、私たちが知るところのブランドが姿を現し始めた。

Rolex-Day-Date-1-1
ロレックス デイデイト 1-1

第一次世界大戦直後の1919年、ロレックスは英国政府が金銀を含む高級品の輸出入に導入するようになった高い関税を逃れるため、ジュネーブへと拠点を移した。この動きに続いて、同社は「モントレ ロレックス SA」と登録され、後に現在の名前である「ロレックス SA」となった。激動の時代にその歴史がスタートしたにもかかわらず、ロレックスは高性能な時計を作ることに成功した。事実、ロレックスの時計は、1910年にスイスのクロノメーター公式証明書を交付された初めての腕時計である。4年後には、イギリスのキュー天文台より別のロレックスの腕時計にA級証明書が与えられた。この証明書は通常、マリンクロノメーターだけに与えられるものだった。ロレックスはジュネーブでの黎明期に、さまざまな偉業を成し遂げた。その中には1926年に発表された初の密閉型ケースであるオイスターケースや、1931年に発表された世界初の自動巻ムーブメントなど、数々の技術革新がある。

Audemars Piguet Royal Oak Perpetual Calendar
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー

ロレックスが時計メーカーとしてかなり例外的な形でスタートしたのに対し、オーデマ ピゲの歴史は伝統的なスタートだった。1875年にスイス、ル・ブラッシュで、時計師のジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲによって設立されたこのブランドは、1881年、「オーデマ ピゲ」という名前になった。オーデマは複雑なムーブメントの製造、ピゲはムーブメントの調整という、2人の創設者それぞれの強みを生かして、役割分担がされた。オーデマは製造、その他の技術的な面に関する責任者であり、ピゲは営業、管理、会社の全般的な経営上の責任者となった。

ロレックスの2人に似たパートナーシップではあったものの、オーデマ ピゲのビジネスモデルはロレックスのものとは基本的に異なっていた。彼らは職人技を生かして手作業で複雑な時計を少量で生産することを選び、また周辺地域の職人たちとも協働した。これは当時の時計業界に広がりつつあった工業化の流れとは対照的なものだった。しかしロレックスは創業時からこの工業化を採用していたブランドであり、このことはクラフツマンシップという両ブランドの最も大きな相違点を強調している。

クラフツマンシップ&品質

ロレックスの時計は同時代の他の時計に比べて常に優れた品質を誇ってはいたが、クラフツマンシップという点においては、オーデマ ピゲのものとは完全に同レベルというわけではない。ロレックスが年間1〜120万本を生産する一方、オーデマ ピゲは約5万本しか生産しない。ロレックスは大規模なプロダクションに多くの機械を採用し、はるかに少ない時間をかけて時計を作っている。オーデマ ピゲが時計1本につき30〜99時間もの時間を費やしているのに対し、ロレックスは時計1本につき3〜6時間のみ。オーデマ ピゲの時計には、ギョーシェ彫りの文字盤や、手作業で仕上げたムーブメント、ポリッシュ仕上げの面取りが施され、丁寧に立てられたケースなど、ロレックスの時計にはないものが備わっていることが多い。

Audemars Piguet Royal Oak Tourbillon – the very best in Swiss watchmaking
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク トゥールビヨン

オーデマ ピゲの時計は確かにロレックスのものに勝るクラフツマンシップを体現してはいるが、品質の違いは予想されるほど大きくはない。ロレックスの製造品質は時計業界においてトップクラスであり、ブレスレットやケースは信じられないほど頑丈で、ムーブメントの信頼性の高さは有名だ。ロレックスのムーブメントは時代を先取りしたものが多く、20年以上も問題なく使用できる。オーデマ ピゲのムーブメントも信頼できるものだが、その複雑さのために、問題が起きやすくなっている。また、オーデマ ピゲのクロノグラフに搭載されているような複雑なムーブメントでは、ベースムーブメントにモジュールが追加されていることがあり、性能上の問題が生じることがある。ロレックスが実践する時代を超える技術革新という点からすると、同ブランドでは取られないスタイルである。

技術&機能性

すでに述べたように、ロレックスは密閉型のオイスターケースやパーペチュアルムーブメントなど、時計製造上の最も重要な技術のいくつかを開発してきた。どちらも今では時計業界のスタンダードとなっているが、これだけではない。ダイバーズウォッチ製造において長い歴史を持つロレックスは、時計ケース内部からガスを排出させ、時計の風防を水圧による破損から守るヘリウムエスケープバルブも発明したのだ。ロレックスは1967年にこの技術に対し特許を取得している。

Rolex Sea-Dweller 40001996 Sea Dweller Ref- 16600 with Helium Escape Valve
ヘリウムエスケープバルブを備えたロレックス シードゥエラー Ref. 16600

こうした重要な開発以外にも、ロレックスは時計の機能性を向上させるために、2000年に耐磁性と耐衝撃性を高めるパラクロムヒゲぜんまい、2005年にGMTマスター IIでデビューを飾ったセラミック製ベゼルなど、その他の新しい開発を行ってきた。

ロレックスとは対照的に、オーデマ ピゲは1921年にジャンピングアワー搭載の時計、1986年に世界初の自動巻きトゥールビヨン(オートオルロジュリーでは今やありふれた複雑機構だ)など、新しくユニークなコンプリケーションを作ることにフォーカスしてきた。その他にもさまざまな複雑機構を搭載した超薄型ムーブメントを数多く開発し、驚くほど複雑なグランド・コンプリケーションなど、多くの偉業を達成してきた。ロレックスとオーデマ ピゲを技術的な面から比較すると、全く別のスタイルの話なのだ。

モデル&コレクション

両ブランドの中心には、基盤となるデザインが存在し、両社のモデルのほとんどがそれにしたがって作られる。ロレックスにとってはオイスター パーペチュアルであり、オーデマ ピゲにとってはロイヤル オークだ。ロレックスにはオイスター パーペチュアルを基礎としないモデルもあるが、防水ケースと自動巻きムーブメントを使ったモデルが多いため、コレクションの大半はオイスター パーペチュアルを基礎としている(そのため、ロレックスの文字盤には「Oyster」と「Perpetual」という刻印がある)。このことは、チェリーニと1908以外のすべてのモダンなコレクションに見られる。

Rolex Oyster Perpetual Datejust 41 Ref. 126334
ロレックス オイスター パーペチュアル Ref. 126334

オーデマ ピゲは対照的に、1972年にロイヤル オーク スポーツウォッチの発表に続いて、伝統的なドレスウォッチから、異なる複雑機構を搭載したロイヤル オークのバリエーションを作り出すことにフォーカスするようになった。1993年、同社はロイヤル オークのよりスポーティーなコレクションであるロイヤル オーク オフショアを発表、2002年にはオーデマ ピゲの最高峰の時計製造技術を集結させたロイヤルオーク コンセプトを発表した。

その間に、オーデマ ピゲはジュール・オーデマ、エドワール・ピゲ、ミレネリーなどのドレスウォッチの生産を縮小した。しかし2019年、オーデマ ピゲは八角形のミドルケースを持ち、ロイヤルオークに敬意を表するCODE 11.59を発表し、ドレスウォッチの領域へ再び参入を果たした。

価格&リセールバリュー

両社は非常に異なるタイプの時計ブランドではあるが、ロレックスとオーデマ ピゲに共通する点は、二次流通市場での価格が高いということだ。オーデマ ピゲの平均の希望小売価格はロレックスのおよそ5倍だが、この2つのブランドは二次流通市場において業界屈指の需要の高さを誇る。両社の現行モデルのほとんどは通常価格より高く販売され、生産終了モデル、ネオヴィンテージモデル、そしてヴィンテージモデルに関してはすべて非常に人気で、時間の経過と共に価格は確実に上昇し、資産としての価値を証明している。

オーデマ ピゲとロレックス、どちらがいいのか?

この2ブランドのどちらがより優れている、ということは言いにくい。確かに、オーデマ ピゲはロレックスより素晴らしいクラフツマンシップを誇るが、職人技を生かした時計製造はロレックスが目指すものではない。ロレックスがオーデマ ピゲに勝るのはその信頼性と丈夫さである。職人の手仕事によって作られた時計という点に関してなら、オーデマ ピゲが間違いなく勝るだろう。それはロレックスの時計が良くないということではないが、オーデマ ピゲが世界最高の時計ブランドと考えられる雲上御三家の一角を占めるのには、それなりの理由がある。同社の作る時計は、実用性を備えたな芸術作品だ。対照的に、ロレックスの時計はあくまでツールウォッチである。そしてそこにこそ違いがあると言えるだろう。


記者紹介

Aaron Voyles

時計が持つ芸術的なデザインから、ムーブメントに隠された技術、そして時計にストーリーを与える背景など、時計作りの全てに魅了されています。

記者紹介

最新記事

IWC-Mark-2-1
2024年03月20日
ブランド
 5 分

空の英雄 – IWC マークシリーズ

Barbara Korp
Tudor-Investment-Magazin-2-1
2024年03月19日
ブランド
 8 分

【資産価値】チューダー、投資対象としてのポテンシャルは?

Jorg Weppelink
イエマ – 波乱万丈の歴史を持つ時計ブランド
2024年01月29日
ブランド
 14 分

イエマ – フランス時計業界の未来を担うブランド

Tim Breining