チューダーがヘリテージ ブラックベイ クロノグラフを2017年に初めて発表した当初、時計業界の意見は二分した。チューダーはダイビングウォッチの外観とねじ込み式のプッシュボタンを備えていながらも、リューズにレーシング用のタキメータースケールを配したクロノグラフで、一体何を売りにしたいのかと怪訝に思う時計ファンもいた。それから5年、そのような疑問を抱く人はもういない。たいていのものは見慣れるもので、ブラックベイ クロノグラフの型破りなデザインもその例外ではない。
現在、このシリーズは最も人気の高いチューダーコレクションの1つで、ここ数年間にわたって集中的に手が入れられた。ブラックベイ クロノグラフは現在合計で12種類のモデルから選ぶことができ、その中にはパンダデザインや逆パンダデザインのものもある。さらに、S&G ブラックベイ クロノグラフは自信に満ちたスタイルを演出するための人目を引くステンレスとゴールドのコンビモデルも提供している。チューダーはこのコレクションにブライトリングと共同で開発し、ブライトリングの自社製キャリバーB01をベースにした自社製クロノグラフキャリバーMT5813を初めて採用した。
需要が高いことから、ブラックベイ クロノグラフのモデルの多くは正規販売店で入手することが難しい。姉妹ブランドのロレックスではずっと前から普通のことが、段々とチューダーでも普通になりつつある。つまり、相応の代金を支払えない、あるいは支払いたくないのであれば、長い待ち時間を甘受しなければいけないということだ。残念ながら競争は厳しく、この時計が欲しくても手に入れることができない人も少なからずいる。そのため、二次市場でのがめつい値上げに関与したくはないが、バイコンパックスデザインの高級クロノグラフを手に入れたい人は、チューダー以外の素晴らしいブランドもチェックしてみるべきだ。本稿ではブラックベイ クロノグラフに代わる4つの選択肢をご紹介しよう。
ニバダ クロノマスター 新しい機能を備えたクロノグラフ
ニバダ クロノマスター アビエーター シーダイバーの歴史は1960年代初頭まで遡る。チューダーがまだブラックベイコレクションの発表を夢にも描いていなかった頃、ニバダは合計で9つの新機能を備えたトップモデルをリリースした。ニバダはこの時計をホイヤーの定番モデルであるオータヴィアやブライトリングのクロノグラフに対する直接のライバルに位置付けた。ホイヤーやブライトリングと異なり、ニバダはクォーツショックを生き残ることができず、他の多くのスイス時計メーカーと同じく1970年代末に姿を消してしまった。現在、この見た目も技術的にも魅力的な時計のヴィンテージモデルは非常に人気が高く、その価格は数十万円する場合もある。
古い時計では日常における実用性が限られてしまうため、ニバダブランドが若い企業家によって復活を遂げたことは一層喜ばしいことだ。このメーカーはクロノマスターの大きな可能性を見抜き、デザインとサイズは実質的に1960年代のオリジナルモデルのまま、このモデルを数多くのバージョンで復刻した。約38mmのケース径を持つクロノマスターは誰にでもよく似合う。ケースサイズが41mmのブラックベイ クロノグラフではこうはいかない。
すべてのニバダ クロノマスターには手巻きムーブメントと自動巻きムーブメントの両方が用意されている。Ref.86004Aは白い文字盤と黒いインダイヤルを搭載したクラシックなパンダダイヤルモデルだ。このモデルは1960年代初期にリリースされた初代クロノマスターを手本にしている。時計内部で時を刻んでいるのはブラックベイ クロノグラフのように自社製キャリバーではないが、自動巻きのセリタSW510 M BH bは最も信頼できるスイス製クロノグラフキャリバーの1つであると見なされている。逆パンダデザインの方がお好みであれば、オレンジボーイ（Ref. 86006A）がおすすめだ。この時計では全体の外観にアクセントを付けているオレンジのクロノグラフ針が目を引く。
クロノマスターはサファイアクリスタル風防を搭載しており、オリジナルモデルと同じく100m（10気圧）の防水性能を備えている。ステンレスブレス付きのモデルは約27万円で購入可能だ。
エベラール コントグラフ
エベラールは1887年から存在している会社であるが、この時計ブランドを知らない時計ファンは多いかもしれない。このスイスのラ・ショー=ド=フォンに本社を置く時計メーカーは1960年代初頭に「コントグラフ」という名前のクロノグラフを発表した。この時計はその魅力的なデザインと高い品質によってまたたく間にベストセラーとなったが、いつの間にか姿を消してしまった。2014年、エベラールは時計見本市「バーゼルワールド」でコントグラフの復刻モデルを発表した。
ヴィンテージ時計の復刻版ではよくあるように、コントグラフのケースも1960年代のオリジナルモデルに比べて大型化されている。このステンレス製時計の直径は42mmでブラックベイ クロノグラフよりも1mmほど大きく、軽量級モデルではないのでどちらかというと力強い手首に適している。コントグラフはさまざまな文字盤仕様で手に入れることができ、カ厶フラージュ柄で文字盤を彩った限定モデルも提供されていた。
Ref.31069.2は白い文字盤と3時と9時位置に黒いインダイヤルを配したクラシックなパンダダイヤルを搭載している。アワーマーカーにはアプライドバーインデックスが採用されており、ツール的というよりもエレガントな時計の外観を強調している。これと同じことはドフィーヌ型の時針と分針にも当てはまる。タキメーターベゼルを備えたブラックベイ クロノグラフとは異なり、コントグラフはブラックのセラミックベゼルを搭載している。このベゼルには第2タイムゾーンに使用できる1から10までのアワーマーカーが刻まれており、タキメーターは文字盤の外周に配されている。残念ながら、防水性能はたったの50m（5気圧）。そして、蓄光塗料の視認性はかなり低い。コンタグラフは要するにダイバーズウォッチではないのだ。
駆動装置に使用されているのはエベラールキャリバー8147で、これはETA 7753をベースにしている。通常の停止機能とクロノグラフ機能の他に、このムーブメントは6時位置に日付表示機能も搭載している。定価はかなり高く67万円以上するが、通常の市場価格はそれよりも大分低い。先述したパンダダイヤルを搭載したリファレンスでは、ステンレスブレス付きの新品が40万円以下で購入できることもある。逆パンダモデルでもこの状況は同じようなものだ。
ハミルトン イントラマチック クロノグラフ
ハミルトン イントラマチック クロノグラフはその文字盤外周に配されたタキメータースケールによって、多くの場合タグ ホイヤー カレラに代わる選択肢として見なされている。しかし、この時計はバイコンパックスレイアウトを備えたクロノグラフであるため、チューダー ブラックベイ クロノグラフに対する安価な選択肢ともなり得る。イントラマチック クロノグラフの歴史は、この米国発祥のスイスブランドが初めてバイコンパックスクロノグラフを発表した1968年まで遡る。2017年、ハミルトンはこの時計の50周年直前に最初の復刻モデルをイントラマチック68（Ref.H38716731）という名前で発表した。1960年代のオリジナルモデルはまだ手巻きムーブメントを搭載しており、直径はたったの36mmであったが、2017年にリリースされた時計は自動巻きムーブメントを搭載し、42mmという堂々たるケース径を持っている。逆パンダスタイルの文字盤の外周にはタキメータースケールが配されている。
時計内部に搭載されているのは非常に魅力的なハミルトンキャリバーH-31だ。これは純粋な自社製キャリバーではないが、ムーブメントメーカーであるETA社が独自の名前を与えるに見合うだけの改良をバルジュー7753に加えたものである。それによって、H-31のインダイヤルの配置は6時位置に日付表示、3時位置に30分積算計となっている。パワーリザーブは約60時間だ。イントラマチック68は1968本の限定生産で、レザーストラップ付きでのみ手に入れることができ、価格は約23万円となっている。
40mmしかないイントラマチック Ref.H38416711は典型的なパンダスタイルで白い文字盤を備えている。小型化された直径によって文字盤とインダイヤルの比率は42mmの限定モデルよりもはるかに調和が取れている。この時計にはレザー製ストラップの他にミラネーゼブレスレットも用意されており、防水性能は最大100m（10気圧）だ。約23万円という価格は、ブラックベイ クロノグラフの購入価格と比べれば、まだブルーとグリーンの文字盤を搭載したイントラマチックをそれぞれ一本ずつ買えるほど安い。
ベル&ロス ベリータンカー
1992年に設立されたベル&ロスは、100年以上の歴史を持つ時計業界ではまだ新参者である。創業者は友人同士であり経営者でもあるブルーノ・ベラミッシュ（Bell）とカルロス・A・ロシロ（Ross）だ。ベル&ロスはフランスに本社を置いており、時計はスイスのラ・ショー=ド=フォンで製造している。2017年、同マニュファクチュールは500本限定のバイコンパックスクロノグラフBR V2-94 ベリータンカー（Ref. BRV294-BT-ST/SCA）によって、ブラックベイ クロノグラフと張り合うことができるスタイルを持つ時計をリリースした。この名前は戦闘機の腹部に積まれた補助燃料タンクをベースに作られた1940年代のレーシングカーに由来している。
ベリータンカーのケースは直径41mmでブラックベイ クロノグラフとまったく同じサイズであるが、厚みは分厚いブラックベイのケースよりも薄くなっている。文字盤は金色でデザインされており、ブラックのインダイヤルが配されている。アワーマーカーにはバーインデックスが使用されており、6時と12時だけにアラビア数字が用いられている。4時半の位置にある日付表示は好みの問題だが、シンメトリーな文字盤が好みの方にはマイナスポイントかもしれない。ブラックベイ クロノグラフと同じく、ベリータンカーもタキメータースケールが配されたステンレスベゼルとねじ込み式のプッシュボタンを搭載している。この時計はサファイアクリスタル風防を備えており、100m（10気圧）防水となっている。
時計内部で時を刻んでいるのは、残念ながら自社製キャリバーではない。ベル&ロスは駆動装置にカム式機構を備え48時間のパワーリザーブを持つETA 2894-2を使用している。その代わり、オイスタースタイルでステンレスブレスレット付きのベリータンカーの価格は約43万円で、ブラックベイ クロノよりも大幅に安く手に入れることができる。
BR V2-94 ベリータンカー ブロンズはブラックベイ クロノグラフ S&Gのライバル機である。これはクラシックなコンビモデルではなく、ブロンズ製ケースがブラックの文字盤とブロンズ色のインダイヤルと共に見事な色彩のコントラストを生み出している。そして、ブロンズ色のミニッツスケールとブラックのベゼルが全体の印象を完璧に仕立て上げている。この時計は999本限定であるが、その他のバージョンと同じく手に入れるのは難しくない。価格は約61万円となっている。
