2022年09月20日
 6 分

ほとんど知られていない、チューダー時計

Donato Emilio Andrioli
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チューダー(Tudor )のアンティーク時計は資産価値が非常に安定していることで知られているが、ここ数年、アンティーク時計の市場価格は急激な上昇を続けている。本記事でご紹介するチューダーも、生産終了から長い年月を経ているため、最も高価かつ、コレクションとしても価値のあるチューダー時計のひとつだ。ただ、この時計を知らない時計コレクターや愛好家は多い。その独自性によって、ロレックス サブマリーナに代わる選択肢として人気を誇る、チューダー サブマリーナの陰に隠れてしまっているからだろう。ところで、この記事を読み進めていくうちに、魅力的で個性的な、目もくらむような価格のチューダーに惚れ込んでしまったとしても、どうぞご安心を。後半ではこのモデルに代わる、より安価で優れたチューダー時計もご紹介する。 

このアンティークチューダーはコレクターの間で高く評価されている
このアンティークチューダーはコレクターの間で高く評価されている

チューダー モンテカルロ コレクション価値の高い個性的なスポーツアイコン

オイスターデイトモデルシリーズ7100はチューダークロノグラフの第二世代にあたる。1971年に登場し、1977年までチューダーのカタログにラインアップされていた。コレクターの間で「モンテカルロ」と呼ばれているスポーツクロノグラフのことだ。ルーレット盤を想起させる文字盤はその独特なデザインとオレンジのカラーアクセントによって70年代の時代精神を完璧に表現している。この時計の素晴らしい点は、デザインが完全に独創的であるところだ。6時位置の日付表示を拡大するサイクロップレンズが、ロレックスとのつながりを伺わせる唯一の要素である。しかし、チューダー サブマリーナと異なり、チューダー モンテカルロがすぐにロレックスを連想させることはない。ケース、ブレスレット、および細部において、その外観はまったく異なる。有名なオイスターケースとオイスターブレスレットはロレックス製のものが使用されており、クラスプとリューズにはロレックスの王冠マークが刻まれている。ケースバックに刻印されている文字は、それらがロレックスの純正部品であることを示している。 

しかし、ムーブメントはロレックス製ではなく、汎用機の手巻きのバルジューキャリバーが使用されている。ブルーのベゼルとオレンジのアクセントを備えたグレーとブルーの文字盤は印象的で、70年代の魅力を醸し出している。チューダーは大量に生産された後期のリファレンス71690でブラックとグレーのカラーバリエーションも追加した。このスポーツクロノグラフの製造期間中、改良と多種多様な見た目上の変更が加えられたさまざまなリファレンスが発表された。このアイコニックなチューダー モンテカルロが気に入って、コレクションに加えたいと考えているのであれば、大きな予算を用意する必要がある。このスポーツクロノグラフは完全にコレクターズアイテムとなってしまっており、現在の価格は250万円から290万円の間にある。もし特別に状態の良い個体やフルセットを購入したいのであれば、価格はすぐに350万円ほど、場合によってはそれ以上になる。筆者がChrono24で調べたところ、「トロピカルダイヤル」の個体が約1000万円で販売されているのも発見した。ステンレスベゼルのRef.7032にはさらに高値が付けられており、現行価格はなんと約1700万円だ。これはとりわけ自社製キャリバーを搭載していないアンティーク時計にとって目もくらむような価格である。  

チューダー オイスターデイト モンテカルロは70年代の時代精神を完璧に表現している。
チューダー オイスターデイト モンテカルロは70年代の時代精神を完璧に表現している。

より安く優れた復刻モデル チューダー ヘリテージ クロノ

チューダー モンテカルロは好みだけれど現在の価格は高すぎるという方に、うれしい知らせがある。チューダーは現在のカタログにこのスポーツアイコンの復刻モデルであるチューダー ヘリテージ クロノをラインアップしている。素晴らしいことに、このモデルはオリジナルのデザインを若干踏襲したオマージュではなく、チューダー モンテカルロをほぼそのまま再現している。また、チューダー ヘリテージ クロノはアンティークのオリジナルモデルよりもはるかに安いだけではなく、客観的にみても現代的な時計としてあらゆる点において優れている。モンテカルロのケース径は40mmで今でも十分に通用するサイズだが、ヘリテージ クロノではそれが42mmになり、現代の時計着用者に合わせて完璧にカスタマイズされている。復刻モデルのケース、ブレスレット、クラスプはロレックス製ではないが、その品質と手触りは自社のチューダー ブラックベイと同じく素晴らしい。 

ロレックスのノウハウはチューダー ヘリテージ クロノでもはっきりと感じられる。このクロノグラフの新モデルにも、チューダーによって改良された汎用クロノグラフムーブメントが搭載されており、その自動巻きキャリバーのパワーリザーブは42時間だ。また、風防の素材はプレキシガラスからサファイアクリスタルへと変更されており、150mの防水性能によって日常使いにも完璧に適している。しかし、この復刻モデルの最も素晴らしい点は、オリジナルモデルの精神がほぼそのまま現代に受け継がれていることだ。ひと目見ただけでは、新しいモデルとオリジナルモデルを見分けることはおそらくできないだろう。オパライン文字盤はグレーのオリジナルよりも少々明るいが、その他の要素は全てほぼそのまま現代に復活したようだ。ヘリテージ クロノはオレンジのアクセントによってアンティークモデルと同じような感じの良い70年代の雰囲気を醸し出しており、これはブルーベゼルとブラックベゼルのどちらのモデルを選んだとしても変わらない。個人的にはオリジナルモデルと同じアイコニックなブルーのモデルを選びたい。ベゼルは両方向に回転させることができ、12時間目盛りによって第2タイムゾーンの時刻を読み取ることができる。これはアンティークモデルにも備わっていた機能だ。それに対して、日付拡大ルーペは復刻モデルに採用されなかった。しかし、チューダー モンテカルロの6時位置に付けられていたサイクロップレンズにはずっと違和感を感じていたので、これは歓迎すべき変更だ。それによって時計の独自性がさらに増すことになる。チューダー モンテカルロが好みであるならば、チューダー ヘリテージ クロノは心からおすすめできる1本だ。モンテカルロの復刻モデルは約57万円から手に入れることができ、オリジナルモデルよりも断然安い。それに加えて、現代的な技術によって時計としても明らかに優れている。アイコニックなクロノグラフをオリジナルに非常に忠実に復活させたのは、チューダーの巧みな一手と言わざるを得ない。 

チューダー ヘリテージ クロノはモンテカルロのデザインを受け継いでいるが、技術的にはより優れている。
チューダー ヘリテージ クロノはモンテカルロのデザインを受け継いでいるが、技術的にはより優れている。

記者紹介

Donato Emilio Andrioli

チューダー ブラックベイ41という機械式時計を始めて買って以来、機械式時計の虜になってしましました。特に、古くて感動的な歴史を持つアイコン時計が大好きです。

記者紹介

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