2021年09月28日
 10 分

アメリカ人コメディアンと時計

Troy Barmore
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時計収集に関する素晴らしい点のひとつは、さまざまな職業や社会的地位の人々を時計という一つの趣味のもとに集められるということだ。時計はすべての人々に異なる方法で語りかけ、そして誰かの時計の選択は、その人の性格の中核となる部分を反映していることがしばしばある。その人が身につけている時計を見ることで、その人となりがよくわかる、というもの。より多くの人が投機的な理由から時計を買うようになっている今では、この魅力的で時代遅れな趣味が少々真剣になりすぎてきているかのように感じられる。というわけで、雰囲気を和らげてくれることで有名な種類の人々、つまりスタンダップコメディアンの時計愛好家たちについて取り上げてみたいと思う。 

ジョン・ムレイニー

最初のひとりは、“キッド・ゴージャス” ことジョン・ムレイニー。ジョンは、『サタデー・ナイト・ライブ』の作家として活躍するうちに、コメディアンとして人気を上げてきた (彼のおかげで、ビル・ヘイダー演じる人気キャラクター “ステフォン” があるのだ)。ジョンはまた、クラシックでややフォーマルなスタイルで知られてもいる。彼はしばしば、パリッとした仕立てのスーツを着てスタンダップスペシャルに登場する。この服装のスタイルは彼の時計のチョイスにも反映されている。彼がイエローゴールドのフレデリック・コンスタント クラシック オート ムーンフェイズ Ref.330MC4P5をよく装着しているのが目撃されている。  

このジュネーブを拠点に持つ時計会社フレデリック・コンスタントは日本のシチズングループの傘下に入っており、手頃な価格でありながら非常にエレガントで伝統的な時計を作ることで評判を得ている。機械加工仕上げの部品とモジュール構造のムーブメントを用いることで、同メーカーは他の高級時計メーカーに比べて格段にお得な価格で高級腕時計を提供しているのだ。シルバーのギョーシェ彫りを施した文字盤、ブルースチールのブレゲ針、6時位置のムーンフェイズ表示が備わるクラシック オート ムーンフェイズは、あらゆる観点から、伝統的なスイス製時計のエレガントさを体現している。 

伝統的かつお手頃なブランドであるフレデリック・コンスタントの時計を愛用するジョン・ムレイニー。

ワンダ・サイクス

史上最高のスタンダップコメディアンの1人として見なされているワンダ・サイクスは、この業界の女性たちのパイオニア、そしてLGBTQ+コミュニティの活動家としても知られている。彼女は『クリス・ロック・ショー』の脚本家としてプライムタイム・エミー賞を受賞したことで、初めて有名になった。サイクスは90年代後半に『コメディー・セントラル・プレゼンツ』において最もアイコニックなスタンダップコメディーのショーのいくつかを行なっている。その成功に続いて、彼女は時々、カルティエ ロードスター Ref.W62041V3を身に着けているのを目撃されている。 

航空家アルベルト・サントス・デュモンのために最初のサントスが作られた1904年にまでさかのぼる、カルティエの時計づくりの歴史の基本的側面は、万能さと優雅さの完璧なバランスを保つために、ユニークなフォルムのケースを活用することにあった。ロードスターもまた例外ではない。それは変更が加えられた樽型 (トノー型) のケースと、ドラマチックで過度に強調されたリューズ (2000年代初頭の豪華さを暗示するデザイン的特徴) を持っている。同社がロードスターを生産したのは10年ほどの間だけだったが、今日までこれはカルティエの魅力を保ち続け、非常にスポーティーであり、なおかつシックでもある。  

ワンダ・サイクスのお気に入り、カルティエ ロードスターはわずか10年間のみ製造されていた。
ワンダ・サイクスのお気に入り、カルティエ ロードスターはわずか10年間のみ製造されていた。

ビル・バー

Netflixの数々のコメディースペシャル、『マンダロリアン』での役、そしてトップ人気を誇るポッドキャストなどの経験を積んだビル・バーは、間違いなく最も成功している現役スタンダップコメディアンの1人である。そのすべての成功にもかかわらず、バーは堅実で労働者階級、そしてニューイングランド人特有の雰囲気・態度を保ち続けており、非常に好ましく受け取られている (もっとも、意見を求める人によっては不快だと言うかもしれないが、それがコメディーたるもの。仕方ないだろう)。決して派手であったり仰々しいところのないバーは、時折、例えば、人気のYouTubeショー『Hot Ones』に登場したときなど、ブライトリング スーパーオーシャン 44を着けているのが確認されている。 

高明な時計ブランドによるものではあるが、ブライトリング スーパーオーシャン 44は、ダイバーズウォッチとしては若干一般的な人とは違った選択肢である。このモデルはロレックス サブマリーナやオメガ シーマスター、ブランパン フィフティ ファゾムスなどのいくつもの大きな影響力を持つダイバーズウォッチと同じく、1950年代後半にルーツを持っている。ブライトリング スーパーオーシャンはいまだにオリジナルの実用的なツールウォッチとしての魅力の一部を残してもいる。バー自身がスパイシーなチキンウィングに真っ向から取り組んだように、これは困難との激しい格闘を避けようとはしない時計なのだ。 

人とは少々違ったチョイス、ブライトリング スーパーオーシャン 44を装着するビル・バー。

デイヴ・シャペル

コメディー界のレジェンド、デイヴ・シャペルはここ20年において最も影響力のある俳優、作家、スタンダップコメディアンの1人だ。自身の名を冠した番組のヒットによりスーパースターとなった後、シャペルは自分の個人的かつ創作的なニーズに忠実であるために、その番組 (と何億円という金) を捨てた。彼はオハイオへ戻り、家庭を築いたのだ。当時は衝撃的な選択だったが、それは彼の同時期の同業者たちから大きなリスペクトを集めたものだった。  

この個性的で、奇妙なことに中西部的な傾向に合わせるかのように、シャペルはNetflixでの『オースティン・シティ・リミッツ』の際にシャイノーラ ランウェル クロノグラフを着用していた。デトロイト発のこの会社は、主にその腕時計と自転車で知られている。シャペルは長年にわたり、ロレックスデイトナ 116500LNを含め、たくさんのもっと高価なタイムピースを装着しているのを目撃されているものの、彼がシャイノーラを選んだのは、ハリウッドのきらびやかさに対する自身の相反する感情を強調するために意図的に選んだのだと考えたい。あるいは、単純にその見た目が好きだっただけなのかもしれないが。 

Dave Chapelle se decidió por un Shinola Runwell Chronograph para su espectáculo en Netflix.
デイヴ・シャペルはNetflixでのショーのためにシャイノーラ ランウェル クロノグラフを選択。

ルイス・ブラック

世の中でも最も変わったスタンダップコメディアンの1人、ルイス・ブラックは、特徴的なお笑いキャラを作るために、念入りに計算されたウィットと作り上げた憤怒をミックスさせる。彼の辛辣で批判的なユーモアは、『ザ・デイリー・ショー』からブロードウェーまでいたるところにその足跡を残してきている。その風変わりなキャラクターに合わせて、ルイス・ブラックがあまり有名ではないが日ごとに知名度を上げてきているマイクロブランド時計メーカーを気に入っているのは、驚きではない (なんとありがたいことだ!)。 

アイスランドはレイキャビク発のJSウォッチ・カンパニーは、風変わりなものからスポーティー、クラシック、控えめなものまで、さまざまなスタイルの時計を提供する興味深い小さな会社である。スイス製ムーブメントをアイスランドで組み立てるJSウォッチ・カンパニーは、自社を「おそらくは世界最小の時計メーカー」と呼んでいる。しかし、彼らのウェブサイトを覗いてみると、ルイス・ブラックだけがその作業場を訪れた唯一のセレブではないということがすぐにわかる。他にもベン・スティラー、エド・シーラン、トム・クルーズなどの名前が並んでいるのだ。 

ジェリー・サインフェルド

スタンダップとホームコメディーの巨匠ジェリー・サインフェルドは、彼なしにはコメディー界は今日の姿にならなかったと言って差し支えない存在だろう。ホームコメディーを辞めたからといって、サインフェルドは引退したり、世間から忘れ去られたわけではない。2020年のアニメ映画と新しいコメディースペシャルに加えて、彼の長年暖めてきたプロジェクト、『サインフェルド: ヴィンテージカーでコーヒーを』は大ヒット。その内容はサインフェルドが他の業界を象徴する今ホットな人物と一緒にクラシックカーを乗り回し、タイトルにある通り、コーヒーを飲むというものだ。  

この番組はクラシックカー愛好家にとって非常に嬉しいものなのだが、鋭い目を持つ時計愛好家なら、数多くの興味深く特徴的なタイムピースをホストとゲストの手首に見つけられるはずだ。この番組に登場した時計だけでも1つ記事が書けるくらいである。しかしサインフェルドのコレクションのハイライトとなるタイムピースは、おそらく、史上最もアイコニックなレーシングクロノグラフのひとつ、アンティークのホイヤー オータヴィア “シフェール” Ref.1163Tの他にはないだろう。1970年代はじめ、ホイヤーのブランドアンバサダー的な存在であった有名なレースドライバー、ジョー・シフェールのニックネームを持つこのクッション型のクロノグラフには、伝説のキャリバー 11が搭載されている。 

伝説のアンティーク ホイヤー オータヴィア “シフェール” を着用するジェリー・サインフェルド。
伝説のアンティーク ホイヤー オータヴィア “シフェール” を着用するジェリー・サインフェルド。

アリ・ウォン

新進気鋭の作家、そしてスタンダップコメディアンとして懸命に働き経験を積んだ後、アリ・ウォンはそのNetflixスペシャルの『アリ・ウォンのオメデタ人生?!』と『アリ・ウォンの人妻って大変!』をもってコメディーシーンに彗星の如く現れた。そのスペシャルでウォンは、恐れることなく、人種、現代社会から母性、セクシュアリティに至るまで、幅広い話題をネタにし、笑いの渦を巻き起こす。その剃刀のように鋭いユーモアのセンスと素晴らしい眼鏡のテイスト (彼女の鮮やかなレッドのバートンペレイラの眼鏡は、ステージでの彼女の存在感を強調している) の他に、ウォンはまた良い具合に風変わりなタイムピースを愛用している。 

アリ・ウォンはコメディーにおいてだけでなく、その腕時計のチョイスにおいても大胆不敵に、デジタルのカシオを選ぶ。

ウォンのカシオのデジタルウォッチ Ref.A158WEA-9はスチール製で、カシオのラインナップの定番だ。そのゴールドカラーの文字盤は、ともすると何の変哲もないデジタルウォッチとなってしまいがちなこの時計に、アンティーク風の2トーンタッチを与えている。これはこのコメディアンにとっては面白い選択肢である。ややアンティークでトレンディ、皮肉っぽく、そして驚きの約2700円という金額でカシオのウェブサイトで販売されているのだ。ステージでのウォンはまさに計り知れない力を持つ存在であり、彼女のコメディーに表されている活力とくだらない嘘抜きの現実主義の組み合わせは、この楽しくて堅実なタイムピースにも反映されている。時計愛好家は、クールな時計を身につけるのに大金を費やす必要はないということを覚えておくべきだ。 

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記者紹介

Troy Barmore

私は幼い時から時計ファンでした。その熱中が始まったのは、兄のジラール ペルゴ クロノグラフを買うという目的のためだけに夏休みのアルバイトを引き受けた時です。それ以来、私の好みはヴィンテージ ツールウォッチや現代的な独立系ブランドにまで及んでいます。

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