インディーズブランド、スタートアップ、クラウドファンディングブランド、またはクラシックなファミリー企業― 時計業界のビックプレーヤーと比べて、多くのブランドの名前はまだそれほど広く知られていない。そのようなブランドの多くは魅力的な価格の時計を提供しており、時計ファンに発見されるのを待っている。この記事では、まだ有名ではないが注目すべき時計ブランドを選び出した。もしかしたら、このリストの中のブランドの1つが、近い将来あなたのコレクションに仲間入りしているかもしれない。
アルキメデ
フォルツハイムは現在とりわけドイツ宝石業界の伝統的中心地として知られている。しかし、1970年代後半にクォーツショックが起こる以前、この町では数千人の人々が時計産業で働いていた。現在フォルツハイムで時計を製造しているのは数少ない時計ブランドだけだが、この町にある金細工職人学校と時計師学校は、今でも国際的な時計市場に多大な影響を与え続けている。
時計産業が栄えていた(もしくはいる) 場所には、部品供給業者も存在する。約100年間続くファミリー企業のイックラーもそのようなメーカーの1つで、時計ケースを製造している
しかし、イックラーは高級ブランドのサプライヤーというだけではなく、独自の時計も製造している。このブランドの「パイロット」、「クラシック」、「1950’s」または「スポーツダイバー」などのコレクションは、その名前から想像する通りのタイプの時計だ。特に優れているのは(もちろん) イックラー自身によってフォルツハイムで作り上げられるケースで、これがただでさえ良心的な価格設定のモデルの価値をさらに高めている。
「GOLDENE UNRUH」賞を受けたアルキメデ パイロット42GMTは約15万円で手に入れることができる。
スタウト トウェンテ
転職の華々しいストーリーは、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。それは大抵の場合、中年の銀行家やその他の成功を収めたビジネスマンで、ストレスの多いビジネスライフに見切りを付け、ブドウ栽培やデリカテッセンなどの新しい仕事や、慈善団体などで第二の人生を始めるというものだ。
ここで取り上げたい転職ストーリーの主人公は、1991年にオランダで生まれたイヴォ・スタウト。しかし、彼は自身の天職を見つけた時、中年でも特別に裕福というわけでもなかった。
スタウトがイタリアでアコーディオンを学んでいた時、始めは順風満帆に進んでいた音楽の道にもいつしか不安を感じるようになる。彼は機械式時計にのめり込むことでこの苦境から逃れる方法を見つけ、いつの日か自身の時計を組み上げられるほどの技術を身に付けていた。それから間もなくして、時計ファンはイベントでこの若い時計師の処女作を目にし、彼の過去は物語となった。
現在、スタウトは小さいけれど質の高い定評あるブランドであり、何百年と続く伝統を持っているわけではないが、その代わりに誠実で興味深い物語によって人々の心を捉えている。また、時計の内部機構も素晴らしく、サプライヤーによって組み立てられた機構はスタウトによって装飾され、ネジは焼戻しされ、部分的に独自のシャトン付き¾プレートが使用されている。青い文字盤のフィリグリープリントも、スタウト トウェンテの時計の見どころだ。
イヴォ・スタウトの処女作の最新モデルであるプレリュード 手巻きは、約29万円で購入することができる。
クリストファー・ワード
クリストファー・ワードは時計業界ですでに知られた名前であるが、ビックプレーヤーと言うにはまだほど遠い。しかし、2004年に創業したイギリスブランドがビッグプレーヤーに成長する可能性は大いにある。
このブランドの時計作りは、数多くのブランドが常に同じ汎用キャリバーから時計を組み立てており、販売時に多大なマージンを得ている、という認識から始まった。そして、クリストファー・ワードは「世界で最も安い最高級時計」の製造に着手する。しかし、このアイデアが単に手頃なラグジュアリーの提供で終わっていたならば、同じ目標を掲げる多くのブランドの1つに過ぎなかっただろう。
汎用キャリバーを使用する代わりに魅力的な価格の時計を提供するコレクションの成功によって、このブランドは確実に次の一歩を踏み出した。そして2014年、スイスのシナジーズ オルロジュリー社の買収によって(会社の所在地はイギリスであるが、時計はそれまでも常に「スイス製」であった)、クリストファー・ワードは初の自社キャリバーの製造を成し遂げる。このキャリバーSH 21はモータースポーツ、航空、またはシンプルなエレガンスに影響を受けた多くのコレクションに採用されている。また、このキャリバーは2つの香箱によって5日間のパワーリザーブを実現し、手巻きモデルと自動巻きの両タイプで提供されている。
SH 21を搭載するクリストファー・ワード時計を手に入れたいのであれば、モデルに応じて25万円ほど見積もっておく必要がある。しかし、クリストファー・ワードはこの約半分の価格でも、C1 グランド マルヴァーン ワールドタイマーなどの興味深い時計を提供している。このモデルでは改良されたベースムーブメントが採用されている。
ヴェーレンバッハ
時計の素材は、とりわけヴィンテージトレンドに関して非常に話題となっているテーマである。例えば、ブロンズの成功は機能的観点が常に最優先されるわけではないことを示しており、むしろこの素材が持つ海とエイジングの魅力がレトロファンの心を掴んでいる。使用されている素材を航海、航空、または宇宙飛行などと結びつけ、ふさわしい「物語」を顧客に届けること― 時計産業はこのことの意味をすでに随分と前から理解していた。
ヴェーレンバッハもこの哲学を体現するブランドの1つである。使用される素材は単に宇宙飛行を連想させるだけではなく、それは実際にソユーズのロケットに使用されていた。価格帯に応じて、ヴェーレンバッハは防風ケーシング、エンジンカウリング、そしてロケットエンジンそのものなど、ロケットの様々な部品を時計に使用している。ソユーズ モデルシリーズには、ロケットエンジンから手間のかかる方法で精錬された独自合金が使用されている。ヴェーレンバッハは、そのようにして生まれたケース素材を「SRE (Soyuz Rocket Engine ) ステンレススティール」と呼んでいる。
このような手法を中にはマーケティングの仕掛けだと考える人もいるかもしれないが、宇宙飛行にロマンを抱く時計ファンにとって魅力的な1本であることは間違いない。
Tockr
ユニークな素材を使用した時計をもう1本紹介する。アメリカブランドのTockrは、一見したところ、よく目にするような丈夫なパイロットウォッチを提供している。この時計のデザインはアメリカ、製造はスイスで行われ、実績あるスイスムーブメントが内部で時を刻む。しかし、このブランドがD-DAY C-47モデルで使用している金属は普通ではない。それは、1944年のノルマンディー上陸作戦で800機のC-47から成る編隊を率いたダグラスC-47の機体材料なのだ。
この唯一無二の飛行機の修復において、アルミ製胴体の一部を購入することができ、そこからTockr D-DAY C-47用の文字盤が製造された。このモデルは「Clean Cut」、「Stamped」そして「Hard Worn」の3つのタイプで手に入れることができ、各タイプは損耗度と胴体部の使用される部分によって区別されている。
確かに約25万円という価格は、文字盤以外に特筆すべき特徴を持たず、ETAムーブメントと316Lステンレスケースを搭載する時計にとってお買い得とは言えない。しかし、歴史的に重要な飛行機の金属を使用した文字盤に意味を見出すならば、この時計の購入はただの時計以上の価値を手に入れることである。また、この時計は私たちがこれまでに見た中で、最もクリエイティブで細部まで凝ったボックスに入れられている。さらに、収益の一部は、歴史的飛行機を再び飛行可能な状態にすることを目標に掲げる、コメモラティブ・エアフォースに自動的に寄付される。
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