20世紀初頭の飛行機の台頭に伴い、全く新しいタイプの時計であるパイロットウォッチも人々の間に広まっていった。パイロットウォッチの中には、腕時計には珍しい追加機能を持つモデルもある。この記事では、それがどの機能であるのか、そしてそのような時計には購入するだけの価値があるのかについて説明する。
パイロットウォッチの特徴
パイロットウォッチの誕生は、昔のパイロットが手を操縦桿から離すことなく常に時刻を確認できる時計を求めたことによるものである。リストバンドによって手首に固定できる時計 ― それは、シンプルで天才的な解決策であった。1904年に初めて発表されたカルティエ サントスなどの時計は懐中時計全盛期に革命をもたらし、腕時計の登場を告げた。
しかし、パイロットウォッチが時計愛好家の中で現在まで非常に高い人気を誇っているのは、それが丈夫で信頼でき、高機能だからでもある。このことはとりわけ文字盤のデザインによく現れており、シンプルで必要最低限まで削ぎ落とされたデザイン、ダークなベースと明るい数字、針、インデックスのコントラストが極めて視認性の高い時計を生み出している。
時と共に創意豊かな時計師たちはパイロットウォッチに新しい機能を拡張していった。その中でも最も普及しているのは、パイロットの操縦の負担を大幅に軽減するクロノグラフ機能。異なるタイムゾーンの時刻を表示できるGMT機能も、長距離飛行において便利である。また、特定の時間間隔は回転式カウントダウンベゼルによって確認することが可能であった。
これらの普及している追加機能の他に、少々特別な機能を持つ時計も度々市場に登場している。ここでは、その中のいくつかについて詳しく見ていきたい。
高度計とコンパスを持つ時計
高度計はコクピットになくてはならない存在。パイロットに現在の飛行高度を表示し、飛行機が下降飛行中または上昇飛行中であるかを教えてくれる。視界不良または夜間時において飛行に不可欠な補助ツールである。現在、パイロットウォッチの中には高度計が搭載されているモデルもある。ティソのT-タッチコレクションのように、大抵の場合、メーカーは電子式高度計を採用している。しかし、スイス時計メーカーのオリスはビッグクラウン アルティメーターで異なる道を選び、完全機械式の高度計を時計に搭載した。時計内部には小さな金属製容器が取り付けられており、この容器は変化する気圧に応じて変形する。そして、この動きが針に伝えられ、圧力とそれに応じた高度を目盛り上で表示する。
コンパスも同様に飛行機に必要不可欠である。しかし、計器盤の計器が機能しなくなったとしても、方角は時計によって比較的簡単に測定することができる。ただし、そのためには時計がアナログ表示でなくてはいけない。北半球では、時針を太陽の方向に向けた時に、時針と12時の中間の位置が南となる。南半球にいるときは、同じ方法で北方向を測定することができる。ブライトリング コックピット B50やシチズン プロマスター アルティクロンなどの時計は、4つの方位以外に目盛りも付けられた特別なコンパスベゼルを備えており、この方法によっても時計は十分な機能を備えたナビゲーションツールへと素早く変化する。
航空計算尺と偏流角
コンピューター技術が飛行機やヘリコプターのコクピットに使用されるようになる前、パイロットは進路だけでなく、燃料消費、下降率・上昇率、進路偏差を手動で計算しなければいけなかった。そのためにパイロットは大抵の場合、乗算・除算計算、さらには自乗計算、開法計算、対数計算、三角法計算などの算術演算を行うことができる航空計算尺を使用した。
時計メーカーは比較的早くから時計に航空計算尺を搭載するというアイデアを持っていた。ブライトリングはクロノマットによって1942年に航空計算尺が内蔵された時計を開発。その10年後、ブライトリングは初のナビタイマーを発表し、大ヒットを生み出した。特徴的な航空計算尺を持つパイロットクロノグラフは今でも最も人気の高いブライトリングモデルに数えられ、パイロットウォッチコレクターであれば必ず所有したい1本である。クロノグラフ機能を諦められるのであれば、セイコー プロスペックス オートマティック アビエーション SRPB61J1がより手頃な選択肢を提供している。
横風と気流が規定の進路にどの程度影響を与えるのかは、パイロットにとって特に重要な情報である。進行方向のずれを適切に修正するためには、偏流角を計算しなければいけない。現代の航空旅客機ではもちろんコンピューターがこの仕事を引き受けているが、グライダー乗りやアマチュアパイロットはこの計算を度々手動で行わなければいけない。その際にハミルトン カーキ アビエーション X-ウィンドは大いに役立つだろう。この時計には特別な航空計算尺ベゼルが搭載されており、偏流角を計算することができるのだ。
チャールズ・リンドバーグとアワーアングル ウォッチ
パイロット用の最も古いコンプリケーションはロンジンによって作られた。ロンジンは1927年にエアーナビゲーションの第一人者であったフィリップ・ヴァン・ホーン・ウィームスと共にウィームス セコンドセッティング ウオッチを開発。この時計は文字盤の中心に回転式ダイヤルを備えており、それによって秒数と時報の同期を可能にしている。この時計は現在もロンジン コレクションの1つであり、1931年に製造されたもう1つの有名な時計、リンドバーグ アワーアングル ウォッチのベースとしても使用された。
チャールズ・リンドバーグは1927年の歴史的な大西洋横断飛行の後、パイロットが海上でも現在位置を計算できる時計を開発するようロンジンに依頼し、それによってアワーアングル ウォッチが誕生した。この時計は飛行士に、六分儀と航海暦を併用することで現在の経度と緯度を計算することを可能にした。リンドバーグ アワーアングル ウォッチも現行のロンジンコレクションに含まれている。
特殊機能を持つパイロットウォッチを購入する価値
今日において誰が航空計算尺、高度計、またはコンパスを備えた時計を必要とするのだろうか、と言えば、おそらく誰も必要としないだろう。そこそこ新しいスマートフォンであれば、はるかに正確で簡単にそれらの仕事をこなせることは間違いない。時刻表示機能においても、スマートフォンは (特に機械式) 腕時計を完全に凌駕している。しかし、これらの時計が必要ないのか、と言えば全くそうではない。
このような時計は第一に特別な時計を求めるパイロットウォッチファンを対象としている。これらの時計はコレクションアイテムとしても非常に適しており、ブライトリング ナビゲーターやロンジン アワーアングル ウォッチなどの定番モデルの価値は比較的安定している。