クロノグラフはおそらく最も人気のある機能の1つだろう。と同時に、それは製作および開発するのが最も複雑なムーブメントでもある。永久カレンダーやトゥールビヨンはさておき、クロノグラフは製造時の技師に対する要求が非常に高い。センターセコンドの秒針をリセットし0位置に戻す時など、クロノグラフムーブメントは多くのエネルギーを扱う必要がある。機械式クロノグラフのリセットを見ることができるスローモーションビデオをオンラインで検索してみてほしい。センターセコンドの秒針は、開始位置に戻る時に若干意外な動きをする。このような微妙な動きは、解像度の高い映像なしでは見ることができなかっただろう。
ほとんどのクロノグラフ時計は一時期特定の目的に対して導入されていた。ロレックス デイトナとオメガ スピードマスターは最も有名なクロノグラフ時計であり、元々はレーシングドライバーのために作られた。スポーツ以外では、クロノグラフの産業利用もいくつかあった。これら多くの時計は特定の「単位」スケールを持つもので、異なる(製造) 作業の時間を計るために使用された。だがデイトナやスピードマスターの様に、ほとんどのクロノグラフはカーレースと関係している。例えばホイヤー カレラである。
タグ・ホイヤー カレラ 写真: Bert Buijsrogge
現代では少なくなったが、多くのクロノグラフムーブメントは長い間手巻きで、自動巻きクロノグラフムーブメントは1969年まで発売されていなかった。1969年1月にゼニスが「エル・プリメロ」という名で世界初の自動巻きクロノグラフを発表し、その後ホイヤーとブライトリングによって共同製作された自動巻きクロノグラフであるクロノマチックが1969年3月に発表された。エル・プリメロとクロノマチックの発表は共に1969年初旬であったが、実際に発売されたのは秋になってからである。これが理由で、セイコーが初めて自動巻きクロノグラフを市場に投入したメーカーとなった。セイコーのキャリバー 6139 の発売は1969年6月だったからだ。
パテック・フィリップは2010年に自社製の美しいクロノグラフムーブメントを導入するまで、レマニア社の機構をベースにしたクロノグラフを使用していた。ロレックスも2000年以降デイトナに自社製ムーブメントを使用しているが、それ以前はバルジュー(1988年まで)とゼニス エル・プリメロの改良バージョン(1988～2000)を使用していた。
ロレックス デイトナ ゼニスムーブメント 写真: Bert Buijsrogge
現代でも多くのメーカーは他社製造のクロノグラフムーブメントを使用している。これは悪いことであろうか？もちろん違う。ETA7750 やセリタ SW-500 などの汎用ムーブメントの性能は非常に高く、それによって多くのメーカーが手頃な価格でクロノグラフ時計を自社のコレクションに加えることを可能にしている。近年では、長年汎用クロノグラフを使用してきたブライトリングとオメガも、自社製クロノグラフムーブメントを開発した。自社のブランドを再配置し、サプライヤーへの依存を減らすために、時計製造技術のレベルを1つ上げたのだ。
機械式クロノグラフ時計の素晴らしいところは、それが必ずしも高額ではないことだ。数十万円で良好な状態のヴィンテージ セイコー6139を手に入れることもできる。クロノグラフの歴史が生み出した素晴らしい1本だ。
この記事では、おすすめのクロノグラフを10本紹介したい。
ロレックス デイトナ
1963年に発売されたロレックス デイトナ (デイトナの名は1965年に初めて文字盤に登場した) は、タキメーターベゼル、3つのメーター、プッシュボタンを搭載したクロノグラフであった。デイトナは最も人気のあるロレックス時計の1つで、世界中のコレクターや富豪から高い評価を受けている。新品のステンレス製ロレックス デイトナを購入するための入荷待ちリストがあるのだが、このリストに載っていても時計が手元に届くまで数年かかる。しかし優れたディーラーは他よりも早くこの時計を入手し、定価よりも高い価格を支払うつもりっても手に入れたいという顧客に提供している。この時計にそれだけの価値があるのだろうか？答えは、もちろん「イエス」だ。
コラムホイールを搭載した自社クロノグラフムーブメントはクロノメーター検定済みで、さらにロレックスは平均日差-2/+2秒というより厳しい仕様を保証している。ロレックス デイトナは、唯一ステンレス製、ゴールド/ステンレス製、金無垢製、およびプラチナ製の4種類で提供されているモデルだ。時計の入手しやすさは素材によって決まる。といっても、それは十分に難しいのだが。
オメガ スピードマスター
オメガ スピードマスターは、印象的なスポーツウォッチラインナップの1つとして1957年に発表された。ダイビングウォッチのシーマスター 300、そしてエンジニア向けのレイルマスターとともに、スピードマスターはクロノグラフシリーズを構成し、高い賞賛を受けているキャリバー 321 ムーブメントによって作動した。この時点ではまだ宇宙との関連はなくレースとスポーツにのみ使用されていたのだが、1965年に NASA がオメガ スピードマスターを採用したことで、このクロノグラフ時計は宇宙飛行士が船外活動を行うための計器となった。スピードマスターは、あらゆる過酷な状況を仮定したテストに合格した唯一の時計であった。ロレックス、ロンジン・ウイットナーそしてハミルトンは、このテストに耐えることがまったくできず、ウォルサムは NASA が依頼していないのにも関わらず時計を送りつけた。その他も大なり小なり同じようなものだ。
オメガは、1969年にバズ・オルドリンが月面で着用していた時計と同じオメガ スピードマスター (プロフェッショナル) を今でも製造している。手巻きムーブメントを搭載したオメガ スピードマスター プロフェッショナル「ムーンウォッチ」に加えて、オメガはこの時計の異なるモデルもいくつか発表している。ムーンウィッチ以外で人気のあるモデルと言えば、スピードマスター「ダークサイド オブ ザ ムーン」だろう。この時計には、ブラックセラミック製のケース、ベゼル、文字盤、そして自社開発されたクロノグラフキャリバー 9300 ムーブメントが搭載されている。
ブライトリング・ナビタイマー
オメガが常に伝統モデルに忠実であるのに対し、ブライトリングでは多少混同した感がある。スコット・カーペンターが着用したブライトリング コスモノートは、NASA が初めて宇宙で使用した時計である。ナビタイマーの起源は1952年にまで遡るが、どの現行モデルがこの初代ナビタイマーを最も良く表しているかを見つけ出すまで少々時間を要する。公式ではブライトリング ナビタイマー ヘリテージが初代ナビタイマーを記念して作られたモデルなのだが、ブライトリング ナビタイマー01のデザインの方が3時、6時、9時の位置にサブダイヤルを持つオリジナルモデルに近い。
ナビタイマー01は有名なブライトリングB01自社開発ムーブメントを搭載している一方、ブライトリング ナビタイマー ヘリテージは前述したETA 7750を使用している。ブライトリング ナビタイマーはスポーツやカーレース向けとしてではなく、「ナビゲーター」のための時計として製造された。この時計によって、燃費消費、1分あたりのマイル数、対地速度、上昇および降下率などを計算することができる。そして、そのために計算尺を用いる必要がある。この機能は現在のパイロットにとってはあまり意味を持たないが、時計の歴史において重要な一本である。ナビタイマーは様々なモデルで販売されており、好みの一本を選ぶことができる。
ゼニス クロノマスター エル・プリメロ
この記事で前述した通り、ゼニスは1969年に初の自動巻きクロノグラフムーブメントを発表したメーカーだ (しかし初めて市場に出た自動巻きクロノグラフムーブメントではない)。エル・プリメロは、現在においても基本的にその構造をほとんど変えずに製造されているムーブメントである。ヴィンテージのゼニス エル・プリメロを修理に出したとしても、ロックルの工房はすぐにそれを動くようにすることができるだろう。いくつかの現行部品はこの初代ムーブメントと互換性があり、そうでなかったとしても新しい部品を作ることができる。ゼニスは現代に残された数少ない本物のマニュファクチュールの1つなのだ。ゼニスの工房はまさに感動的で、真鍮材が中に運ばれ、それが完全なムーブメントとして出ていくところを実際に目にすることができる。
ゼニス クロノマスター エル・プリメロは、このクロノグラフムーブメントを搭載した時計の名前で、多くのモデルで提供されている。この時計にはゴールド製、ゴールド/ステンレス製、またはステンレス製があり、ムーンフェイズや複雑機構、そしてスケルトンダイヤル (およびムーブメント) などの特別機能も搭載することができる。特にヴィンテージ時計にも興味がある方にとっては、オプションは尽きることがない。もしあなたが本物のクロノグラフコレクターであるならば、エル・プリメロを所持していないなんて口が裂けても言えない。エル・プリメロ ムーブメントは前述した通りデイトナや、モバード、エベル、タグ・ホイヤーなどにも使用されている。
タグ・ホイヤー カレラ
カレラはロレックス コスモグラフと同じ年の1963年に発表された。カレラの名は、1950から1954年の間に5度開催された 3500kmレース「カレラ パナメリカーナ ラリー メキシコ(Le Carrera Panamericana Rally Mexico)に因んで付けられた。ホイヤー カレラは、異なるムーブメント(主にバルジュー)を使用した複数のモデルで販売された。
1984年にホイヤーはタグ・ホイヤーへと社名を変更し、1996年にカレラがオリジナルデザインで再び発売されるまで厳しい時期を過ごした。今日では、カレラ クロノグラフは魅力的な (そして人気のある) 時計であり、多くの異なるデザインで販売されている。レトロな外観のカレラ キャリバー 17 や 18 などの時計は、明らかにヴィンテージのカレラモデルにインスピレーションを受けており、スケルトンダイヤルを搭載するカレラ ホイヤー01 には現代的な解釈が付け加えられている。現在タグ・ホイヤーのカタログには161種類もの異なるカレラモデルがラインアップされている。
IWC シャフハウゼン ポルトギーゼ クロノグラフ 3714
IWCの歴史の中で、ポルトギーゼ クロノグラフ 3714 は最も販売本数が多く成功を収めた時計の1つである。これは、1939年に端を発するポルトギーゼ時計にインスピレーションを受けた、この時計初の現代的な自動巻きクロノグラフモデルだ。現在のコレクションの中には複数のクロノグラフモデルがあるが、リファレンス 3714 は発売から20年経った今でも健在している。これには異なる文字盤デザインを持つ金＝ゴールド製およびステンレス製モデルがある。キャリバー 79350 ムーブメントは ETA (以前はバルジュー) 7750 ムーブメントをベースにしているのだが、IWC の高度な要求に合わせて大きく改良されている。
この時計は象徴的なデザイン、非常にクリーンでエレガントなアラビア数字の文字盤、そして葉型のリーフ針を持ち、プッシュボタン、リュウズガードの非搭載、そして極限まで薄くしたベゼルが、このクロノグラフを完璧なビジネスウォッチ (そしてドレスウォッチにも) に仕立てている。他のクロノグラフが大抵の場合スポーツに焦点を合わせ、その結果としてスポーティーな外観を備えている一方、IWC ポルトギーゼ クロノグラフ 3714 はタキシードと合わせて着用できる時計となっている。スレートカラーの文字盤を搭載する 18K レッドゴールドモデルは、あなたをパーティーの主役へと引き立てるだろう。それでは少し目立ちすぎるというのであれば、ステンレスモデルも素晴らしいチョイスだ。コレクション時計としても、人生を共に歩んでいく時計としても、ポルトギーゼ クロノグラフ 3714 という選択肢に間違いはない。この時計はあなたに素晴らしい物語を提供するだろう。
ユンハンス マックス・ビル クロノスコープ
このクロノスコープは、スイス生まれのバウハウスデザイナーであるマックス・ビルが亡くなった後にデザインされた。時計の名前に「クロノスコープ」という言葉が使われているが、クロノグラフは時間間隔を出来事の経過時間として記録するのに対して、この時計が非常に短い時間間隔を正確に測定するための視覚的な装置であることを意味している。土曜日の夜、友人たちとビールを飲みながら過ごす一時に、ユンハンス マックスはピッタリの話題を提供してくれるだろう。
少しばかり大胆なことを言えば、この時計はポルトギーゼのバウハウス版である。極薄のベゼル、大きなダイヤル開口部、リュウズガード非搭載、そしてプッシュボタン。この 40 mm クロノスコープには、ステンレスモデルおよび金メッキモデルが用意されている。ステンレスモデルは白または黒の文字盤から選ぶことが可能だ。この非常にミニマルなクロノスコープは ETA 7750 ベースのムーブメントを使用している。
ブレゲ タイプ XX
ブレゲ タイプ XX – Chrono24で出品商品を見る
ブレゲ タイプ XX は元々ミリタリーウォッチであった、ということを知っている人が現在どれほどいるだろうか。フランス海軍航空隊はブレゲとその他5社に時計の製作を依頼した。「タイプ20」としても知られるこれらの時計は、いくつかの基本的な要求に基づいており、それはフライバック機能を持つクロノグラフ、12時間スケール付き回転ベゼル、夜光針とアワーマーカー、そして正確なムーブメントであった。ブレゲはこのタイプの時計を最初に作り上げたメーカーであり、今日でもまだ製造している。ブレゲ タイプ XX は今でもオリジナルモデルに忠実であり、ブレゲ タイプ XXI と XXII クロノグラフはより現代的な要素や機能を備えている。
現在の 39 mm のケースを持つブレゲ タイプ XX は1995年に遡る。当初、この時計は5本 (現在は6本) の異なる針を搭載していた。これは、短針と長針を除いて、すべての針が異なるデザインまたはスタイルであったことを意味する。黒い文字盤と蛍光のアラビア数字マーカー / 針の組み合わせによる、光り輝くポリッシュ仕上げのベゼルとケースはクラシックな魅力を備えている。ビンテージのミリタリーウォッチにインスピレーションを受けたドレスウォッチ、といった風貌である。時計内部では、レマニアをベースとする自動巻きクロノグラフムーブメントにフライバック機構を付け加えた、ブレゲのキャリバー 582 ムーブメントが時を刻んでいる。フライバック機能は、最初にストップボタンを押すことなくクロノグラフをリスタートすることを可能にする。それによって余分な手順を省き、クロノグラフをリスタートする時間を短縮することができる。
A.ランゲ&ゾーネ 1815 クロノグラフ
A.ランゲ&ゾーネ 1815 クロノグラフ – Chrono24で出品商品を見る
この美しい時計にはほとんどの人が感動のため息を漏らす。ランゲ&ゾーネは新しいモデルを発表する際に常に話題となるブランドであるが、この最新の1815クロノグラフが集めた注目は印象的であった。グラスヒュッテのメーカーが2004年に発表した1815クロノグラフは、2015年のブティック限定モデルなど、それ以来異なるデザインで登場した。この39.5mmクロノグラフ内部で動くムーブメントには本当に圧巻される。同様に文字盤側も素晴らしく、美しい構造と細部に対するこだわりには感動を覚えずにはいられない。テンプ受けは手で彫刻され、ブリッジとプレートはドイツシルバーから作られている。装飾はすべて手作業で、手巻きムーブメントは全体で306もの部品から構成されている。このドイツ製クロノグラフはフライバック機能、そして文字盤にはパルスメーターを搭載している。
1815クロノグラフのモデルはすべて貴金属製である。ホワイトゴールドでは黒またはシルバーの文字盤を選ぶことができるが、シルバーモデルはブティックエディションとなる。過去のコレクションからその他の文字盤モデルや 18ktピンクゴールドモデルを探し出すことも可能だ。しかしながら、1815クロノグラフを手放してもいいと思うコレクターはあまり多くない。
パテック・フィリップ Ref. 5905P
パテック・フィリップ 5905 – Chrono24で出品商品を見る
パテックは「コンプリケーション」と「グランド・コンプリケーション」を明確に区別している。このリファレンス 5905P は最初のカテゴリーに属するが、他にはない特別な何かを持っている。この時計は、コラムホイールクロノグラフと組み合わされた年次カレンダーを、華麗なプラチナ製42mmケースに収めている。これはパテック・フィリップにとって、そして一般的にも「グランド」である。クロノグラフムーブメントのキャリバーCH28-520 QA 24Hは手巻き式で、10時、12時、2時の位置に配置された3つの窓には曜日、日付、月が表示される。
6時の位置にはクロノグラフの60分積算計が搭載されている。この記事で紹介している最大12時間計測可能なその他のクロノグラフと比べると、いささか物足りない。しかしながら、正直なところ、このドレスウィッチを使用してそのような長時間計測を行う必要性はいつ生まれるのだろうか？5905P は青または黒の文字盤から選ぶことができ、ケースは常にプラチナ製だ。
プラチナモデルを望んでいない、またはもう少し手頃な価格で時計を探しているという場合は、パテック・フィリップ リファレンス5960のホワイトゴールドモデルがおすすめだ。このモデルも遊び心のある文字盤を搭載し、スポーティー過ぎたり「軽い」感じがしたりすることもない。この時計にもキャリバーCH28-520 QA 24Hムーブメントが搭載されており、パテックによって平均日差 -3/+2 秒が保証されている。
