2020年02月27日
 7 分

懐中時計: 時代遅れ、それともタイムレスなクラシック?

Tom Mulraney
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懐中時計: 時代遅れ、それともタイムレスなクラシック?

16世紀初頭に発明された懐中時計は400年もの間にわたり、必要不可欠なタイムキーパーの役目を勤めてきた。しかし20世紀初頭の腕時計の登場により、あっさりとその地位は奪われてしまった。しばしば扱いにくく不便ではあるものの、懐中時計には並外れて複雑で精巧な装飾がされていることもある。現代の腕時計などよりこの傾向がよっぽど高い。しかし、懐中時計には今でも妥当性はあるのだろうか?その答えがイエスであることは想像しにくいが、それでも非常に熱狂的な懐中時計コレクターのコミュニティが存在しているのだ。この時代遅れのタイムキーパーが人を惹きつける理由とは何なのだろうか。そして懐中時計コレクションという世界に飛び込む前に知っておくべきこととは何なのか。これらの質問に対する答えをまとめてみよう。

懐中時計を収集する理由とは?

懐中時計のコレクションをする理由はたくさんある。興味深い歴史。見事な職人の技。幅広い選択肢。そして言うまでもなく、一般的には懐中時計のコレクションは腕時計のコレクションよりも費用がかからないということ。それによって、より多くの人にとって始めやすいコレクションなのだ。しかしだからと言って、希少で格別に価値の高い懐中時計がないというわけではなく、そういった懐中時計も確かに存在している。そのうちのひとつを取り上げてみよう。

A.ランゲ&ゾーネ懐中時計
A.ランゲ&ゾーネ懐中時計

特に19世紀後半から20世紀前半に作られた懐中時計は、そろって一斉に生産されたことに変わりない。つまり、数多くあるということだ。想像に難くないように、そのうちの多くは、少なくとも時計学史ファンにとっては、ほとんどあるいは全く重要性を持たない。そういった懐中時計は、オークションで驚くほどの高値で売り買いされたり、どこかの博物館の値段のつけられないようなコレクションに仲間入りをするようなことは決してない。

しかしその裏を取れば、初心者のコレクターにとっては、比較的簡単に手頃な価格で、本当に興味深いモデルを探し集めることができるということである。それらは国家元首や皇太子などの重要人物が所有していたものではないかもしれないが、歴史における計時器具の発展の興味深い断片を示してくれる。そして、モダンな懐中時計よりもよくできているものであることが多い。

何に注意するべきか?

腕時計のコレクションと同じように、懐中時計のコレクションには大きく分けて3つの注意すべき点がある。ブランド、複雑さのレベル、そして状態である。出どころももちろん重要になってくるかもしれないが、実際には、その時計が100年以上前のものである場合、そしてそれが歴史的な重要性を持っていない場合には、往往にして以前の所有者などの正確な情報を得ることは難しい。

オーデマ・ピゲ 永久カレンダー懐中時計、写真: Auctionata

20世紀の変わり目にはたくさんのメーカーが懐中時計を製造していたため、懐中時計に関しては、ブランドは特に重要である。そのほとんどは注目すべきものではないが、もちろん、気をつけて見るべきいくつかの重要なブランドはある。それは常に名前が上がるブランドだ。よく知られているものには、ブレゲヴァシュロン・コンスタンタンオーデマ・ピゲジラール・ペルゴ、そしてもちろん、他社に比べて圧倒的に重要なパテック フィリップがある。これらの会社が、今日でも絶賛される、極めて複雑な懐中時計ムーブメントを作った重要な時計メーカーである。
懐中時計用のムーブメントには、腕時計の機構のようなサイズ規制はないことを覚えておく必要がある。それはつまり、時計メーカーが精巧な装飾や仕上げ技術と共に、より多くの複雑機構を組み込めるということを意味している。このことから、極めて高級な懐中時計は、具体的なアイデアを持った非常に裕福な人物からの依頼で作られることが多いのである。ひとつの懐中時計を完成させるのに何年もかかることがあったのは、この複雑さと当時特有の技術的な制限によるためである。

このタイプの懐中時計で最も有名な例といえば、もちろん、パテック フィリップによるヘンリー・グレイブス・ジュニア スーパーコンプリケーションである。この時計の所有者である銀行家は、彼の長年の時計ライバル、アメリカ人自動車王ジェームズ・ウォード・パッカードが所有するヴァシュロン・コンスタンタン製のグランドコンプリケーション懐中時計を出し抜きたいという思いから、この時計の製作を依頼した。グレイブス・ウォッチは史上最も複雑な懐中時計のひとつであり、24もの複雑機構を搭載している。これにはウェストミンスター・チャイム、永久カレンダー、日の出・日の入り時刻表示、グレイブス氏のニューヨーク五番街のアパートメントから見える星図などが含まれる。

ヴァシュロン・コンスタンタン 57260

数年前、ジュネーヴでのオークションで取り扱われた際に、実際に手に持ってみるという貴重な機会に恵まれた私としては、間違いなく途方もない時計だと言える。しかし、それは絶対にポケットに入れて持ち歩くような類のものではない。そのオークション史上最高額の懐中時計となった2400万ドルという価格を別にしても、巨大なのだ。パテック フィリップはもちろん、この時計の開発から50年以上後に、ブランドの創立150周年を祝う記念的モデルとなったキャリバー89で、自分自身の記録を上回ることとなった。その懐中時計は驚きの33もの複雑機構を搭載している。だが、ヴァシュロン・コンスタンタンが結果的には、2015年にRef. 57260をもってさらにそれを追い抜くことになった。この時計も史上最も複雑な時計と言われ、57もの複雑機構を搭載している。すぐに打ち負かされるような記録ではないだろう。

最近では、こういったタイプの時計はプライベートなコレクションから出されることはあまりない。ほんの時折持ち主が変わるだけだが、そういったときでさえ、オークションなどのような世間の目に触れるようなやり方ではない。だからと言って懐中時計のコレクションを諦めるべきだというわけでは全くない。自分のテーマを見つければいいのである。例えば、戦時中のモデルや、イギリスまたはアメリカの時計メーカーによって作られたモデル、など。

パテック フィリップ懐中時計

賢い投資対象かどうか?

結局、懐中時計は賢い投資の対象なのだろうか?ヴィンテージ腕時計のように、市場が急激に加熱することはあるのだろうか?私から見ると、これらの問いに対する答えはきっとノーだと思う。もちろん私が間違っていることもあり得るが。しかしそれはあまり問題ではない。自分の資金を投資したいのなら、株式や不動産をやるべきだ。自分の資金を楽しみたいのなら、好きなもの、何か自分を惹きつけて止まないもの、あるいは興味のあるもの、そして見たり使ったりするたびに喜びをもたらすものをコレクションするべきだ。私は歴史的にも時計学的にも重要ではないが、気の利いたデザインであったり、ユニークな特徴を備えたりする本当に素晴らしい懐中時計をいくつか見たことがある。そしてそういった時計は今でもきちんと機能するのだ。それは時として、現代の腕時計以上のものである。

というわけで、あなたが懐中時計を集めてみたいなら、私からのアドバイスは、とにかくやってみるといい、ということだ。今でも興味深いと思える過去の遺物を発見したり、時間を記録する方法がどのように進歩してきたかを理解したりすることを楽しむべきだ。もちろん、もっとディープな世界にはまり、より細かい分野を掘り下げたければ、ぜひそうするべきだ。つまるところ、それこそがこういった趣味を非常に楽しいものにしてくれるのだから。

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Tom Mulraney

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